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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

トヨタとソフトバンク、どちらの投資リスクが大きいのか? 資本コストとは

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授
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 なぜならば、βには事業からのリスクだけではなく財務レバレッジによるリスクも含まれているからです。同一業界であれば、事業リスクが同一と考えることにはさほど問題はありませんが、個別銘柄の資本構成には差があるため、財務レバレッジによるリスクは異なるのです。そこで以下のようなプロセスに沿ってβを算出することになります。

(1)個別銘柄のβ(未修正β)を算出
(2)βから財務レバレッジによるリスクを取り除く(アンレバレッジ)
(3)(2)で算出されたアンレバードβの業界平均を算出する
(4)個別銘柄の財務レバレッジに合わせてアンレバードβの業界平均に再度レバレッジを掛ける(リレバレッジ)

 (2)と(4)において財務レバレッジを調整するアンレバレッジやリレバレッジというプロセスが出てきましたが、以下の公式を利用して対応することになります。

βe=βu×(1+D/E)
βe:株式β(未修正β)
βu:アンレバードβ(事業β)
D/E:時価ベースの負債資本比率

 たとえば、伊藤忠商事のβを算出したい場合、丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事のβも算出し、財務レバレッジの影響をなくした(アンレバレッジした)βのの平均値を業界βとし、業界βに伊藤忠商事の財務レバレッジを反映させて(再レバレッジ)、業界βに基づく伊藤忠商事のβを算出することになります。

 以上、2つのアプローチを紹介しましたが、注意していただきたいことがあります。それは、修正βも業界βも未修正βの質を高める工夫をしているのですが、必ずしも未修正βよりも正しいとは限らないということです。結局、3つのうちどのβを選択するのかに関しては分析担当者の判断が求められることになり、腕の見せ所となるのです。また、世界一の投資家であるウォーレン・バフェットはβという概念をまったく信用していません。バフェットは、βという概念を利用せずに世界一の投資家となっているわけですから、βの質を改善するという努力自体が無駄なことである可能性も否定できないのです。

 以上、株主資本コストについて述べてきました。これまで4回にわたりファイナンス理論の話が中心でしたが、次回はテーマを替えて2016年2月末に公開された「バフェットからの手紙」について紹介したいと思います。
(文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授)

●手島直樹
慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)。

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