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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

北海道大学の謎と真実…本州の日本海側からの学生が多い理由

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

 当時、北前船は商品と情報を流通させる、我が国の「大動脈」であった。明治以降も、この経路を通じた人の交流は続いた。

 たとえば、明治30年代に北海道へ入植したのは富山県出身者がもっとも多かった。越中衆は北海道でも一番端の根室、歯舞諸島や羅臼などを開拓した。その名残は今も残る。富山市は昆布の消費量が日本で一番多いし、高橋はるみ・北海道知事は富山出身だ。祖父は富山県知事を2期8年務めた高辻武邦氏である。2004年には北陸銀行と北海道銀行が経営統合している。

 村田君は「幼少時から北海道に北陸銀行が多いことには気づいていました。ところが、こんな背景があるなど、考えたことはありませんでした」という。かくのごとく、北海道と富山の縁は深い。

真の高等教育とは何か

 実は、研究室のメンバーにも関係者がいる。今春、JR新宿駅のNEWoMan内に開業した濱木珠恵・ナビタスクリニック新宿院長がそうだ。彼女は、釧路生まれの北大卒だが、先祖は富山から北海道に移住した。濱木という姓は、ほぼ砺波地方に限られる。

 このような背景を知ると、北大合格者が富山など日本海沿岸から瀬戸内海沿岸にかけて多いことも納得できる。かつて北前船の寄港地だったからだ。

 村田君は、私にこの作業を指示されたとき「その意義がわからなかった」という。しかしながら、調査を継続するうちに「興奮が止まらなくなった」そうだ。そして、ご両親に「自分のルーツはどこか」と聞いたという。ご両親が彼に言ったのは、現在の石川県能美市だったらしい。なんと、村田君のルーツも日本海沿岸だった。

 村田君の経験は示唆に富む。私たちは自覚しないうちに、歴史の影響を受けている。ところが普段なかなか気づかない。このことに気づくのは、異なる環境に身を置くときだ。だから、私は留年した村田君に「東京にくるように」と勧めた。

 若者はさまざまな地域の出身者と出会うことで、自分の出身地を相対的に考えるようになる。環日本海で交易を行い発展した北陸人は、独自のノウハウを蓄積している。それが武器になる。

 村田君は、今回の作業を通じ、「社会の見え方が変わりました」という。自らを知る。これが高等教育の現場である。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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