
日産自動車は三菱自動車工業を傘下に収めることにより、1000万台クラブの有資格を得た。しかし、ヘタをすれば、それは“地獄への一歩”になりかねない。
というのは、自動車業界には販売台数が1000万台に近づくと、経営が揺らぐというジンクスがあるからだ。「1000万台の壁」である。
米ゼネラルモーターズ(GM)は2000年代初め、小型車軽視が致命傷となり1000万台を目前につまずいた。トヨタ自動車もまた09年、1000万台を目前にして品質問題に見舞われ窮地に陥った。独フォルクスワーゲン(VW)は15年上半期、トヨタを抜いて世界一の座を手に入れた瞬間に排ガス不正が発覚し、いまも経営危機から抜け出せない。いずれもジンクスを破ることはできなかった。
3社に共通するのは、無理を重ねて規模を追ったことにより、管理しきれないリスクを抱え1000万台達成前後にあえなく挫折していることだ。早い話が、安全で燃費のいいクルマを世界規模で年間1000万台生産、販売して、なおかつ顧客満足を得るのは至難の業だ。1000万台には“魔物”が潜んでいるといわれる所以だ。
トヨタの3つの構造改革
「自動車業界は、規模や質で異次元の競争に突入した」と、トヨタ社長の豊田章男氏は語る。年間販売台数1000万台は、規模のメリットを生むのは確かだが、しかし、ビジネスレベルは複雑かつ高度になる。まさしく「規模や質で異次元」の世界となり、異質なO&M(オペレーション&マネジメント)が求められる。
ホンダのような500万台弱規模のメーカー、マツダや富士重工業のような100万台以上規模のメーカーとでは、開発、調達、生産、サプライヤーの関係などのオペレーションおよび組織を束ねるマネジメントのあり方が、まったく異なるのだ。豊田氏は13年から15年にかけての期間を「意志ある踊り場」と位置づけ、ブレーキを踏んだ。明らかに「1000万台の壁」を意識しての対応である。
そもそもトヨタは章男体制になってから、3度にわたって構造改革に取り組んでいる。
第一の構造改革は、11年3月の「トヨタグローバルビジョン」である。地域主導の経営を打ち出すために、各地域に大幅に権限を委譲した。