【リアルサウンドより】
「ふるさと」という言葉を聞いて、人はどんな場所をイメージするだろう? 実家であったり、郷里であったり、そのイメージはさまざまだろうが、心の拠り所やルーツといった自らと切り離せない場所ということは共通しているのではなかろうか。ドキュメンタリー作品『さとにきたらええやん』は、ひと言でいえば、その人にとっての自分をいつでも迎え入れてくれる、心のどこかにずっと在り続けるような「ふるさと」の大切さについて気づかせてくれる映画といっていいかもしれない。
まず、この大阪弁のタイトルを耳にすると、この「さと」が示すのは、関西エリアのどこかのどかな里山を想起してしまうかもしれない。でも、本作の舞台となるのはむしろ真逆といえる場所、大阪市西成区にある国内最大の日雇い労働者の街「釜ヶ崎」。野も山もない、ある意味、“里”という言葉が似つかわしくない、仕事を求める日雇い労働者が集まり、彼らの寝泊りする簡易宿泊所、通称「ドヤ」が立ち並ぶ雑多な街だ。最近、関西エリアはUSJの成功などもあって海外旅行客が急増。それに伴い、簡易宿泊所が民泊利用されたりして、外国人ツーリストが釜ヶ崎にはけっこう訪れているとの話を聞く。そういうこともあって街の様相は少しづつ変わっているのかもしれない。ただ、関西の人ならばたいてい知っているように、この街の一般的なイメージはいいとは言い難い。今回、作品を作り上げた大阪在住の重江良樹監督自身も「西成・釜ヶ崎=危険な街という偏見を持っていた」とプレス資料で明かしている。そんなイメージのエリアに、子どもにとって“里”のような自由にのびのびと過ごすことができるスペースがある。それが「こどもの里」だ。この施設こそがタイトルが示す“さと”。そして、この施設は、この町の人間、とりわけ子どもにとって“ふるさと”たる場所になっていることは間違いない。