実行者は後始末に責任を持たない
さて、ここでひとつの疑問が湧きあがる。消費税率10%引き上げの再延期、異次元緩和からマイナス金利政策を導入しての3次元緩和という未曾有の金融緩和策、これらが経済状況に対応して実施されたものだとして、その後始末は一体どうなるのか、という点だ。
消費税率10%への引き上げは19年10月。安倍首相の任期は18年9月だから、消費税率の再引き上げに安倍首相は“我関せず”の立場となる。黒田総裁の任期は18年4月で、残り2年を切った。残り2年で2%物価上昇目標が達成され、マイナス金利政策が終わり、異次元緩和の出口戦略が行われているなどとは、誰も思わないだろう。
まして、19年10月には消費税率10%への引き上げが待っている。14年4月に消費税率を現行の8%に引き上げた時、消費に与えた悪影響がどれだけ甚大だったかを考えれば、消費税率10%への引き上げに向け、景気対策や金融緩和を実施することはあっても、縮小することはないだろう。しかし、薬は強ければ強いほど副作用が出る。この後始末に、当事者の安倍首相と黒田総裁は責任を持たなくともよいのだ。
自民党内には、総裁任期を現在の「2期6年」から「3期9年」に延長し、安倍首相の続投を図ろうという声もある。しかし、この任期延長は安倍首相の執念ともいうべき「憲法改正」に使われることになるだろう。
日銀内部にも、黒田総裁の再任・続投の声がある。未曾有の金融緩和の後始末を黒田総裁は責任を持って行うべきだとの声だ。だが、長い日銀の歴史のなかでも、総裁を2度経験しているのは2人しかいない。いずれも、戦中戦後の時期だ。黒田総裁の再任はないと見るのが順当だろう。
結局、経済政策は実行者が後始末をすることなく表舞台を去り、後任者が責任を取らされるのがお決まりのパターンなのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)