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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

気がつけばイオンやユニクロやニトリだらけ…行き着く果ては際限なき低価格競争か?

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
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常滑焼のセレクトショップ:morrina

 愛知県常滑市は、中部国際空港 セントレアがあり、古くから焼き物で有名な街です。現在LIXILの陶器ブランドとなっているINAXも、常滑が創業の地です。この街の観光スポットに、やきもの散歩道があります。土管坂、登り窯など、昭和にタイムスリップするような体験ができる人気の観光地となっています。やきもの散歩道には、常滑焼を扱うお店も点在しています。一人の陶芸作家の商品のみを扱う店から、数多くの商品を扱う店までさまざまです。

 筆者がたまたま立ち寄って話を聞いたmorrina(モリーナ)では、店主の杉江寿文氏が信頼し、納得できる商品をつくれる地元の作家の商品のみを販売していました。まさに、常滑焼のセレクトショップというわけです。作家の陶器と聞くと高尚でとっつきにくい感じがしますが、取り扱う商品の価格帯は2000円程度の湯のみやコップから、1万円程度の急須などが中心となっており、一般の消費者でも十分に手の届く価格帯です。

 しかし、今は100円均一ショップに行けば陶器のコップも買える時代ですから、同じ用途的価値でありながら、2000円のコップは20倍の値段がする商品と捉えることもできます。

 では、この大きな差を埋めるにはどうすればよいのでしょうか。たとえば、お店の雰囲気はもちろん重要でしょう。morrinaは明治時代の木造の土管工場が綺麗にリフォームされ、古民家のような佇まいです。もちろん、産地に所在しているという立地条件もプラスに働くはずです。さらに、陶器を扱う家系で育った店主に加え、陶芸に関する知識が豊富なスタッフによる丁寧な接客は、やはり説得力が違います。また、作家との人間関係によりmorrina専用品がつくられており、ほかでは買えないということも大切なポイントと言えるでしょう。

 もちろん、課題もあるようです。店主は自らが惚れ込んだ商品の価値をどう消費者に伝えていくべきかという難問に試行錯誤の日々のようです。陶器をつくった作家について、以前は受賞歴などを紹介していたものの、最近は作家のメッセージなど、人間性が伝わるようなものに変更しています。

 また、2階のスペースを利用して展示会を開催するなど、作家と消費者が交流できる場も構築しています。作家の創作にかける熱い思いや苦労は、機械によって大量生産された商品との大きな価格差に対する消費者の認知を緩和させることでしょう。逆に、作家においても消費者との交流は今後の創作に有益に作用するはずです。

 ほかにも、「morrinaの器と暮らしのお話」という新聞を発行しています。記事の中身は、チラシのように自店で販売している商品の紹介ではなく、「常滑焼とは?」「焼き物とは?」「器とは?」などと器に関する知識を掘り下げる特集が組まれています。つまり、自社商品の土壌となる器や焼き物の価値を向上させようと取り組んでいるわけです。

 一人ひとりの仕入先(作家)や消費者を大切にし、一点一点の商品を丁寧に仕入・販売していくことは本来、小売商なら当然の役割のはずです。低価格のみが強く訴求される現代だからこそ、こうした当たり前の取り組みを徹底することは大手企業への数少ない有効な対抗策となるかもしれません。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)