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富家孝「危ない医療」

医者、不要になる事態が現実味…今、医師たちが戦々恐々、人々が病院へ行く必要激減

文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役
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医者、不要になる事態が現実味…今、医師たちが戦々恐々、人々が病院へ行く必要激減の画像1「Thinkstock」より

 最近の医者たちの話題といえば、現在猛スピードで進もうとしている「IT医療」に尽きる。IT技術がいよいよ医療現場に本格的に導入されることで、自分たちはどうなっていくのかと、不安を隠せないからだ。

 もう多くの人が、「スマホ診療」「ポケットドクター」「遠隔診療」「ヘルステック」という言葉を耳にしている。これらはいずれも、ITによる医療サービスを表している。

 たとえばヘルステックは、「ヘルス(健康)」と「テック(IT技術)」との合成語。つまり、モバイル端末やスマートフォン(スマホ)などを使い、医療や健康管理サービスを行うこと全般を指す。

 たとえば、スマホによって自宅にいながら医師の診断を受けるスマホ診療では、専用アプリをインストールしたスマホやタブレット端末により、内蔵カメラで顔色や患部の映像および血圧などのデータを送る。そうすると、医師はそれを見ながら診断を下し、投薬を指示したり、来院での診察を指示したりする。

 つまり、実際に病院に行って医師の診断を受けなくともいいわけで、これがポケットドクターや遠隔診療などと呼ばれている。

 さらに、在宅患者の自宅に患者撮影カメラを設置し、血圧や脈拍、血糖値などの検査器を渡し、そのデータを定期的に病院に送信してもらえば、訪問診療の有無やどんな医療措置をとればいいかなどを電子的に判断できる。この判断は、将来的には医師でなくAI(人工頭脳)でも可能になる。

アメリカでは遠隔診療の実用化進む

 実際のところ、こうしたIT技術による遠隔診療は、アメリカを中心にすでに実用化されていて、とくにアメリカでは多数の遠隔診療サービスが誕生している。

 たとえば、小型の個人用デジタル聴診器とデジタル体温計などをスマホに接続する。こうすることで、心音、肺音、体温などという基本的なデータがスマホ上およびクラウド上に記録され、必要に応じてネットを通じて医師と共有することで、遠隔医療サービスを受けられるというベンチャーサービスの会社がすでに営業している。

 さらに、このような遠隔診療に仮想現実(Virtual Reality:VR)の技術を組み合わせた「3D(3次元)遠隔診療」も実用化されつつある。 VRを使うと、手術シミュレーションや遠隔手術も可能になる。AIがさらに発達すれば、ロボットによるVR手術も可能だという。

 このようなヘルステックに関しては、これまで日本では大幅に遅れていた。ところが、厚生労働省が昨年8月に遠隔診療の事実上の“解禁通達”を出してから、状況が一変した。厚労省は従来「診療は医師の直接対面が基本」として、遠隔診療は離島やへき地、慢性疾患などでの例外と位置付けてきたが、「離島やへき地などは例示であって限定ではない」という通達を出したのである。

 その結果、ネットで医療情報サービスを展開するベンチャー企業が、今年から都市部の診療所などに相次いで遠隔診療システムの提供を始めた。現在、このサービスはどんどん進み、いくつかの医療機関が参加している。

「大きな壁」

 そこで、冒頭の医者たちの話に戻るが、とくに開業医はこうしたことの進展に不安を隠せない。なぜなら、自分たちの仕事がやがてなくなってしまうかもしれないからだ。この不安は、年配の医者ほど強い。ある医者はこう打ち明ける

「たしかに便利で患者にとってはいいことだと思うが、診察は対面診療が基本だ。なぜスマホでいいのか。本当にAIが診断するようになったら、医師免許はどうなるのか」
 
 現在の内科医の診察は、顔色を見たり、症状を聞いたりしながら数値を見たりするだけだから、これはAIが簡単に代用できるだろう。IT化が進めば、ロボットが人間の仕事を奪うとされているが、ついに医者の仕事まで奪われるというわけだ。

遠隔診療の事実上の解禁により、ヘルステックが進んでいるといっても、日本の遠隔診療にはまだ「大きな壁」がある。それは、診療報酬の問題だ。

 現在、テレビ電話による診察で医療機関が得る報酬は、原則的に電話再診料(720円)のみとされている。これは、対面診療ではほかにもいろいろな診療報酬が得られることに比べると、医者の減収を意味する。ただし、この先、厚労省は遠隔診療の診療報酬を引き上げる可能性が強い。そうなれば、これに参入する医療機関、医師は増えるだろう。

 しかし、さらにIT技術が進めば、医者にとっては予期せぬ未来が訪れる。将来的には、「外来診察の7割が不要になる」という試算がある。

 いつでもどこでも医療サービスが受けられるということは、患者にとっては素晴らしいことだが、医者にとっては最悪のことかもしれない。
(文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役)

富家孝/医師、ジャーナリスト

富家孝/医師、ジャーナリスト

医療の表と裏を知り尽くし、医者と患者の間をつなぐ通訳の役目の第一人者。わかりやすい言葉で本音を語る日本でも数少ないジャーナリスト。1972年 東京慈恵会医科大学卒業。専門分野は、医療社会学、生命科学、スポーツ医学。マルチな才能を持ち、多方面で活躍している。
https://www.la-kuilima.com/about/

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