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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」

英国はEUを離脱しない…すでにすべて筋書きされた巧妙なシナリオ、老練な政治家たち

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

 メイ氏にとってEUとの離脱交渉が茨の道となることは織り込み済みであり、交渉の長期化によって宙吊り状態になり、シティを中心とする金融業をはじめとして、EU市場を念頭に置いている製造業についても、世界市場からの信任が減じる方向に向かうことは想定の範囲内であろう。法人税を引き下げる程度でどうにかなる問題ではない。

 このような状況が起こることによって不利益を被るのは、離脱に賛成した国民、イングランド北東・中部などの地方に住む50歳以上の保守的な低所得の労働者階級であり、移民急増で生活を脅かされかねないと感じている中位以下の中間層であろう。一方、残留を支持したシティの金融関係者、都市部に住む50歳以下の高学歴で収入も比較的に高い人々には、EU加盟国に移動するという選択肢がある。

日本にとって重要な示唆

 要は、離脱支持者たちが当人たちの離脱支持の思惑が外れたことに、いつ気がつくかであろう。彼らは、国家の完全な主権回復のために、自らの利益が減じることに甘んじるほど辛抱強くはない。
 
 このような世論の変化を受けて、下院議員の離脱派が残留支持へと方針を変更するのであれば、任期固定制議会法に従い、議員の3分の2が同意を得たうえで、次回総選挙が予定されている2020年よりも前に総選挙を行うことで再度EU残留・離脱の是非を国民に問い、その結果として残留派議員が多数を占めEU残留に落ち着くのではないだろうか。今回の国民投票には法的拘束力がないので、総選挙によって残留賛成という政治的決定を下すことには、なんら問題はないはずである。

 これが、無投票でのメイ首相誕生が示唆する「BrexitからのExitシナリオ」ではないだろうか。筆者には、出口を見極めた為政者のイギリス的な巧妙な打ち手であると思える。そうであれば、今回のイギリス国民投票の結果から得られる教訓は、世界は複雑化に向かうが、人の思考は単純化に向かうという不幸が起こっているということである。また、非合理なことは起こるが、長続きはしないということも示すことになるであろう。

 グローバル化と国家主権(権力)の低下が進み相互連結と依存の高まる世界において、国家の完全な主権の回復が問題の万能薬であるというようなプロパガンダに乗って国民投票を実行し、その結果を示して世界の変化を見ない国民に現実を理解させ、デモクラシーの危うさを国民に知らしめることが目的であれば、イギリスのように最初に国民投票をしたほうがよい。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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