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江川紹子の「事件ウオッチ」第59回

【相模原殺傷事件】で危惧される暴力の連鎖とメディアの「責任」

文=江川紹子/ジャーナリスト

 今、世界各地で暴力の旋風が吹き荒れている。特に、7月はひどかった。

*バングラデシュの首都ダッカのレストランを武装グループが襲い、人質ら22人が殺害され、犯人6人も射殺された。犠牲者のうち7人が日本人だった(1日)。

*アメリカ・ルイジアナ州バトンルージュで黒人が白人警察官に射殺され、その状況を車に同乗していた恋人が撮影し、公開。それを機に、各地でデモが行われ、警察官が射殺される事件も起きた(6日)。

*フランス・ニースで花火見物の客にトラックが突っ込み、84人が死亡。犯人のチュニジア出身の男は射殺された(14日)。

*トルコでクーデター未遂事件発生。以後、エルドアン政権による粛清が行われる(16日)。

*ドイツ・ミュンヘンのショッピングセンターで銃の乱射。9人が死亡。犯人のイラン系の男(18)は自殺(23日)。

 日本で大きく報道されたものだけでも、これだけある。

 この他、いわゆる自爆テロも相次いでいる。イラク・バグダッドでの自爆テロでは、少なくとも292人が死亡し(3日)、アフガニスタン・カブールでは80人が死亡(24日)。ドイツでも、難民認定申請をしていたシリア人の自爆で、12人がけがをした(同)。先月になるが、トルコでは国際空港での自爆事件で、44人が死亡する事件も起きている(6月29日)。

 これらの中には、いわゆる「イスラム国」(IS)の呼びかけに応えて起きたと思われるものもあるが、一つひとつの事件に連関しているわけではなさそうだ。それでも、こんな疑問が湧いてくる。

 先に起きた事件やその報道が、後に事件を起こした犯人の心に何らかの刺激を与えたということはないのだろうか。そして、今回の事件が、世界のどこかで、新たな暴力のきっかけになったりすることはないだろうか……。

 テレビは、事件発生後、朝から晩までと言ってよいほど、長時間にわたって容疑者の手紙やツイッターの書き込み、ネット上にアップした動画が繰り返し繰り返し紹介したようである。

 私は、それほどテレビを長時間見る方ではないが、それでも彼の「せっかいをへ~わにしっましょおよ」と軽々しい声が、今でも頭の中でリフレインしている。それほど大量な報道量が、誰かの心を刺激して、新たな暴力へのスイッチになってしまう、ということがないように祈りたい。

事件を連鎖させないためには

 もちろん、これだけの犯罪である。大きく報じられるのは当然だ。なぜ事件が起きたのかを考えるために、容疑者の考えや内心が記された文章や映像は、貴重な材料だ。それを伝えるのは、メディアの役割である。しかし、朝から晩まで繰り返し、彼の“主張”を流す必要があるのだろうか。たとえ、その映像を渋面を作って見つめるコメンテーターの顔を同時に映したとしても、あるいはその後に容疑者を非難する発言が続いたとしても、やはり多すぎはしないか。

 しかも今回は、被害者の名前が報道機関にも明かされなかったこともあって、被害者に関する情報がほとんど伝えられていない。そのため、事件発生直後の一時期は、ひたすら加害者の“物語”ばかりが流されることになった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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