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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」

トランプ候補に「君たち教育のない人達が僕は好きさ」と言われても平気な米国人の感覚

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授

 スピーチで他人の言動に影響を与えることが上手な人は、メタファー(隠喩)を使う。メタファーは聴衆に具体的イメージを提供する。だから、メタファーを巧みに使ったアップルのスティーブ・ジョブズは、聴衆の心に感動を与えることができ、「プレゼン上手」との評判を得た。

 日本でポピュリズムという言葉が使われるきっかけをつくったといわれる小泉純一郎元首相も、メタファーの使い方が上手だった。メタファーを使うことで、聴衆は彼が言いたいことを一瞬のうちに、直感的に理解できる。たとえば、小泉氏は自民党総裁選で「自民党をぶっ壊す」と発言した。「自民党を革新する」などと言った場合、「革新」という言葉は抽象的で具体的イメージが湧かない。つまり、聴衆の感情に訴えることはできない。だが、「ぶっ壊す」と言えば、壁や建物が崩れ落ちる具体的なイメージが浮かぶ。

 米国のドナルド・トランプ大統領候補でいえば、メキシコから不法移民が入ってくるのを止めるために、「メキシコとの国境に壁を築く」と発言した。「国境の壁」という言葉は、「不法移民を防ぐための法律をつくる」「警備を厳しくする」と話すよりも、具体的イメージを浮かべやすい。そのため、移民によって不公平な扱いを受けていると考える人達には大いに受けた。

 考え方を具象化することで感情にアピールすることができる。メタファーによって自分のアイデアを具体化、具象化することで、どんな教育レベルの人や異なる環境にある人とも同じ概念を共有することができる。ポピュリズムの扇動家を批判する前に、リーダーはこういったコミュニケーション手法を学ぶべきだ。

 ついでに付け加えれば、英国のEU残留派は論理的思考に基づいて理性を持って残留を選択した人達だと思われているようだが、これは真実だろうか。

「Flight or Fight(逃げるか戦うか)」でいえば、離脱派は国内外のエリート層に怒って「戦う」という行動を選択した人たちだ。行動の結果がどうなろうと失うものはない。つまり、自分たちが置かれている今の状況は最低だから、何をしてもこれ以上失うものはないと判断したのだ。

 それに比べて残留派は、EUの将来は明るいと考えて残留を選択したわけではない。自分たちが置かれた今の状況は必ずしも良いものだとは思っていないが、離脱すれば現状より悪くなる可能性がある。離脱派よりはましな暮らしをしている分、失うものがある。だから、行動経済学でいうところの「損失回避性」によって、自分たちが今持っているものを失うことに恐怖を感じたのだ。経済的恩恵を示す統計数字を論理的に判断したわけではない。

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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