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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

経済財政の中長期試算で、「消費増税のインパクト」が消失の謎

文=小黒一正/法政大学経済学部教授

 すなわち、上記(1)(2)でPB赤字(対GDP)が縮小した主な要因は、(1)の「地方の歳出(対GDP)減少」を除くならば、構造的な国や地方の税収等(対GDP)を上方修正したことに深く関係していると考えられる。

消えた「消費増税のインパクト」

 この上方修正の妥当性をめぐっては、内閣府からの詳しい説明を期待したいが、もうひとつ気になることがある。それは、まったく報道がないが、中長期試算7月版では、消費増税のインパクトが消失したことである。

経済財政の中長期試算で、「消費増税のインパクト」が消失の謎の画像2

 中長期試算1月版の実質GDP成長率の予測では、図表1のとおり、17年度において実質GDP成長率は落ち込んでいる。これは、17年4月の増税を前提として試算しているためであり、最近、内閣府が公表してきた中長期試算では増税インパクトは存在した。

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 だが、図表2のとおり、中長期試算7月版の実質GDP成長率の予測では、増税のインパクトは消失している。19年10月の増税を前提としているが、19年度の実質GDP成長率に落ち込みは見られない。

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 このような指摘をすると、「14年版の中長期試算でも、図表3のとおり、当時予定していた15年10月の増税インパクトは存在しないように見えるではないか」という旨の反論がでてくる可能性がある。

 だが、今回の試算と、14年版の試算は前提が異なる。14年版の試算では、14年4月と15年10月の増税を前提にしている。このため、14年4月の消費増税により、実質GDP成長率は14年度に一時的に落ち込むが、15年度はその反動で実質GDP成長率には上昇圧力がかかる。それと同時に、15年10月の消費増税により、15年度では実質GDP成長率に低下圧力もかかる。この両者の効果が打ち消し合って、見かけ上、14年版の中長期試算では、15年10月の増税インパクトが存在しないように見えるのである。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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Twitter:@DeficitGamble

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