ビジネスパーソン向け人気連載|ビジネスジャーナル/Business Journal
同書でリカーズ氏は、金本位制に反対する人々がよくする批判をいくつか取り上げ、それぞれ反論する。
たとえば「金の量が足りないので、金融と商業を支えられない」という批判がある。これまで世界で採掘された金は合計約17万トンで、オリンピック公式プール3.5杯分といわれる。わずかこれだけでは高度に発達した世界経済をとても支えられない、というわけだ。
これに対しリカーズ氏は、金本位制でも世界経済を支えることはできると反論する。同氏によれば、反対論者は今の金価格を前提として考えている。しかし金価格を十分引き上げれば、今の金の量のままでも問題はない。
わかりにくいかもしれないので、一言説明しておこう。今の経済では、金の価格は市場の需要と供給によって日々変動する。しかし金本位制の下では、中央銀行がつねに一定の価格で金とお札を交換するから、金の価格は事実上、政府によって固定されることになる。
「金はつねに十分にある」
さてリカーズ氏によれば、金本位制に復帰する際の金価格は、物理的な金の量と通貨残高の単純な比率から決定できる。この計算にはいくつかの仮定が必要である。どの通貨を含めるか。通貨残高の定義は。金と通貨の比率をどうするか、などだ。
なお、通貨残高はお札など現金だけでなく、銀行預金なども含める必要がある。預金は引き出せば現金になり、金と換えられるからだ。
歴史上の例をみると、1815年から1914年まで英国の中央銀行であるイングランド銀行は通貨量に対し金の裏付け20%で金本位制を運営した。1913年から65年まで米連邦準備理事会(FRB)は米ドルに対し金の裏付け40%以上を義務づけられた。一般に、中央銀行に対する国民の信頼が厚いほど、金の裏付けが低くても金本位制は維持できるとリカーズ氏は指摘する。
同氏によれば、たとえば米国、ユーロ圏諸国、中国が金本位制採用で合意し、通貨残高はM1(現金と当座預金)を使い、金の裏付けを40%とした場合、金価格は1オンスおよそ1万ドルと計算できる。通貨残高M2(M1+普通預金および小額の定期預金)で裏付け100%なら5万ドルとなる。いずれも現在の金価格(約1300ドル)に比べると大幅な上昇だ。
適切な金価格さえ定めさえすれば、「金はつねに十分にある」とリカーズ氏は強調する。
冷静に議論されるべきメリット
米国の未来学者ジョージ・ギルダー氏も、昨年出版した『21世紀の金擁護論』(未邦訳)で金本位制の再評価を説いた。ギルダー氏はレーガン政権の経済政策「レーガノミクス」を支えたといわれ、通信網の帯域幅はムーアの法則の3倍の速さで拡大するという「ギルダーの法則」でも知られる。