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水野誠「マーケティングの進化学」

広島カープファンを急増させたメカニズム…プロ野球の「熱狂」から学ぶべきこと

文=水野誠/明治大学商学部教授
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 広島ファンに特徴的なのは、カイヨワの枠組では模倣や眩暈に分類される要素を重視していることです。具体的には「選手の統率のとれたプレイ」「選手とファンが一体となった感覚」「ファンが一体となり、共鳴し合った感覚」を、巨人・阪神ファンよりも強く期待しています。後者の2つは、野球という競技から直接生じる価値ではなく、ファン自身が行う応援という、派生的な行為から生じる価値といえます。

「共創」によって熱狂が増幅する

 観客を熱狂させるには応援球団が勝ち続けるのが一番ですが、勝敗は観客の手を離れたところで決まります。他方、一体となった応援に参加することから得られる模倣や眩暈の感覚は、ファンにとって確実に手に入るものです。もちろん、敗北があまりに繰り返されると応援意欲が萎えてきます。しかし、連敗のあとの1勝には、連勝中の1勝より大きな喜びがあるのも事実です。それを経験してしまうと、ファンはやめられなくなります。

 こう考えると、広島ファンの熱狂度が高い理由のひとつが見えてきます。彼らは、広島ファン独自の一体感のある応援に参加することで、勝敗をめぐる競争とは別の価値、模倣や眩暈の価値を享受していると考えられます。それは勝敗がもたらす価値に比べ確実性があり持続的です。参加する仲間が増えるほど、それらの経験を共有する喜びが倍加することも無視できません。AIDEESのサイクルが回ることで、熱狂が高まっていくわけです。

 別の言い方をすれば、プロ野球観戦の価値づくりに、観客もまた参加しているということです。これは、最近マーケティングで「価値共創」といわれている概念に他なりません。選手の活躍を眺めているだけでは、価値は与えられるだけのものです。しかし、ファンが一体となって、独特のスタイルで熱烈に応援するなら、価値を自ら創り出すことができます。

 しかし、一体となった独自の応援スタイルなら、他の球団にもあるはずだと思う読者もいるでしょう。確かにその通りですが、広島ファンのほうが、自分たちが価値づくりに参加しているという感覚がより強いと思われます。広島球団が創立された1950年代に、経営的に行き詰まった球団を救うために広島市民が行った「樽募金」のエピソードが、それを物語っています。そして、関東における勝手連的なファンの増加も同様です。

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