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築地市場の豊洲移転、都内が大渋滞慢性化の懸念浮上…通勤ラッシュや物流を直撃も

文=小川裕夫/フリーランスライター
築地市場の豊洲移転、都内が大渋滞慢性化の懸念浮上…通勤ラッシュや物流を直撃もの画像1築地市場(撮影=編集部)

 8月31日、老朽化していた築地市場の移転の是非をめぐり、小池百合子都知事が延期を表明した。これにより、11月7日の豊洲新市場のオープンは取り消され、改めて移転の時期については話し合われる。

 小池知事が移転を先延ばしにした最大の要因は、豊洲新市場の土壌汚染とされている。地下水モニタリング調査の結果が出るのは2017年1月とされており、それ以前に移転を決めてしまうのでは調査の意味がない。

 そうしたことから延期になった豊洲移転だが、すでに豊洲新市場は完成している。あとは築地の業者たちが引っ越しを済ませるのを待つばかりで、小池知事が移転先延ばしを表明した直後から、その時期は2月頃とみられていた。しかし、2~3月は年度末のため、引っ越し業者は繁忙期に当たる。2月に移転を強行しようとしても、準備が整わずに移転ができない業者が出てしまう懸念もあるため、5月の大型連休明けに移転するというプランが浮上している。

 しかし、豊洲新市場の問題は土壌汚染や建物の設計ミスだけが指摘されているわけではない。仮にそれらが解決されても、豊洲移転に難題が山積していることは変わらない。豊洲新市場は、開場約1年前の15年10月29日に報道陣に公開されている。このときから、報道陣から「豊洲市場周辺の交通インフラの脆弱性」を指摘する声はあった。特に、物流インフラの肝ともいえる豊洲市場周辺の道路インフラは脆弱で、それを問題視する声は根強かった。

 もともと豊洲新市場にアクセスする公共交通機関は、「ゆりかもめ」しかない。ゆりかもめの始発は6時台。もちろん、セリには間に合わないので、市場関係者は自動車を使うだろうが、市場の朝のにぎわいを見たいという観光客にとっても、ゆりかもめは利用しづらい。そうなると、観光客はバスやタクシーを使うことになるだろう。自然と、豊洲市場周辺の道路は渋滞する。

 観光客の交通の便が悪いというだけなら、それほど問題にはならない。それよりも深刻なのは、道路インフラが脆弱で渋滞が起きてしまうことだ。豊洲一帯は新しく整備された街区のため、道路などは整然としている。しかし、整然としているがゆえに、都心から豊洲に向かうルートには選択肢がない。

 そうしたことから、深夜・早朝の仕入れ時間帯にトラックが豊洲市場に集中することになる。仕入れのトラックが渋滞を起こせば、物流にも影響が出るし、それは巡り巡って通勤ラッシュにも影響を及ぼす。

場外市場は移転しない

 さらに、道路インフラの脆弱性は、市場移転後の築地をも悩ませる爆弾となっている。いまだに誤解されている面もあるのだが、今回の築地市場移転は一般的に場内市場と呼ばれる卸売市場が移転するにすぎない。

 築地一帯は場内市場のほかに、場外市場と呼ばれる一画もある。場外市場は平たくいえば、単なる商店街にすぎない。場内市場が豊洲に移転しても、場外市場は移転しない。場内は東京都が所有・管理しているが、商店街まで移転させる強制力は東京都にないし、商店街の“面倒を見る”必要もない。

 だからといって、場外を簡単に切り捨てられない事情もある。仕入れをする業者にとってみれば、場内と場外は一体的に機能してこそ意味がある。もともと、築地市場を擁する中央区は、一貫して築地市場の移転には反対してきた。しかし、老朽化が激しくなった築地市場の現状に鑑み、消極的ながら移転容認に転じた。

 中央区は場内が豊洲に移転しても中央区が衰退しないように、移転後を見据えた活性化策を打ち出している。仲卸機能を集約させた「築地魚河岸」は、その目玉といっていい。

「料亭をはじめプロの職人たちは場内でマグロなどを仕入れた後に、海苔やワサビ、醤油、出汁をとるための昆布や鰹節などを一緒に仕入れます。場外には、プロの目に叶った品を扱う専門店が多くある。プロだけが使うこだわりの逸品のため、一般的に大量に売れるような品ではありません。だから、イオンやイトーヨーカドーのような大型スーパーが販売していることはなく、場外でないと揃えられないモノばかりです。プロの職人たちはそうした品を求めて、これまで場外市場に足を運んでいました。場内が豊洲に移転しても、場外は残ります。今後もプロの職人たちは仕入れを終えた後に場外にも足を運ぶことになるでしょう」(東京都中央区関係者)

 豊洲で魚を仕入れた職人たちは、これまで通り場外で海苔やワサビを買う。豊洲から築地までの動線は有明通り・晴海通り(都道304号線)の一本しかない。ここに、豊洲で仕入れを終えた業者のトラックが集中することになる。当然、渋滞は予想されるだろう。

東京オリンピック後に渋滞激化か

 さらに渋滞が激化すると懸念されているのが、20年の東京オリンピック終了後だ。中央区晴海の選手村は、オリンピック閉幕後に住宅用地として開発されることになっている。当然ながら、人口は急増するだろう。それまでに晴海地区と新橋地区を結ぶ環状2号線は開通するだろうが、環状2号線の開通によって外から流入してくる自動車も増加する。環状2号線が開通したからといって、豊洲-築地間の渋滞が緩和される保証はない。むしろ、渋滞は激化するとの予測もある。

 東京都中央卸売市場の担当者は「卸売市場に関しては私たちが所管しておりますが、周辺の道路は私たちの関与することではございません」とし、豊洲市場のオープンで予測される交通問題について他人事を装っている。

 近年、人口減少社会に突入し、自動車の保有台数も減少の兆しを見せている。他方で、都内の渋滞は慢性化しており、東京都は全庁的に道路整備に力を入れて、渋滞解消に努めてきた。豊洲市場の移転で再び交通渋滞が深刻化する懸念が広がっていることは、皮肉としかいいようがない。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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