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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

高まる現金廃止論は危険思想!国民の財産毀損やプライバシー侵害横行のおそれ

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
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 欧州中央銀行(ECB)は14年以降、金利をゼロ以下に引き下げることでユーロ圏の物価を押し上げようとしてきた。預金者は今後、預金手数料を課されるおそれがある。一部の企業や大口個人預金者はすでに預金手数料を支払っているという。

 8月に7年5カ月ぶりの利下げに踏み切り、政策金利を過去最低の0.25%とした英国でも、銀行預金を引き出して現金に換える動きが強まっている。欧州連合(EU)離脱を決めた6月の国民投票後、現金の伸びが年率8%に高まり、年初からそれまでの2倍のペースに加速した。

国民生活を脅かす懸念

 キャッシュレスは便利だし、現金廃止は税逃れや犯罪防止に役立ち、金融政策の助けにもなるといわれれば、つい賛成したくなるかもしれない。しかし以前の本連載でも述べたように、現金廃止は普通の国民生活を脅かすおそれが大きい。

 第1に、タンス預金の自由が奪われる。銀行預金がマイナス金利で目減りしたり、金融システム不安で銀行破綻のおそれがあったりする場合には、現金を手元に置くのは合理的な資産保全の手段となりうる。現金廃止はその手段を奪ってしまう。

 第2に、プライバシー侵害のおそれが強まる。現金がなくなると、あらゆる売買は銀行預金や電子通貨で行われることになるが、これらはすべて記録が残り、政府はさまざまな口実でその記録を閲覧できる。記録が外部に漏洩する懸念もある。

 前出ウォール・ストリート・ジャーナル記事によると、ドイツ人は現金志向が強い。ナチスや旧東ドイツ秘密警察「シュタージ」の経験から、政府に詮索されることへの恐怖を知っているからだ。現金の存在をドイツ憲法で保証するよう求める運動もあるという。

 日本でも終戦後まもなく、政府が国民に紙幣を強制的に預けさせ、預けなかった分はただの紙切れにするという暴挙に出たことがある。財産税を徴収するため、タンス預金をやめさせ、国民の財産を丸裸にして把握するのが狙いだった。

 もし現金が廃止され、国民が金融機関の預金しか利用しなければ、財産を把握する手間は大いに省ける。それが喜ばしいと感じるのは、政府関係者だけだろう。
 
 犯罪が市民生活に対する脅威だとしても、現金廃止がもたらす脅威はそれよりはるかに大きい。政府・中央銀行と親しいエリート経済学者が現金廃止を熱心に唱えるのを耳にしたら、用心したほうがいい。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

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