35年前といえば、あの平成バブルが始まる5年前。日本にはまだ高度成長期の余韻が残っていた。団塊世代は30代の前半。人生の興隆期を迎えていたのではなかろうか。
その団塊の世代に属し、ほどほどの企業に勤める2人のサラリーマンが、東京でマンションを買うことにした。そして2人とも、当時としてはかなり思い切った価格である4000万円前後の高級マンションを購入した。それぞれ親からの援助もあったが、購入資金の大半は住宅ローン。もちろん、35年返済だ。
今、彼らは共にそのローンを無事完済できた。残されたのは築35年のやや老朽化した中古マンション。子どもは巣立ち、住んでいるのは団塊の夫妻のみ。
「このマンション、いくらで売れるのかしら」
老いが忍び寄っている。いつかはそこを出て介護サービスのある施設に移ることになりそうだ。少しでも条件の良い施設に入るには、それなりの資金が必要。貯金もあるが、マンションを売却したお金もあてにしたいところだ。
2人は同じ時期に、それぞれの地元の不動産仲介業者に売却額の査定を依頼した。A氏のマンションは3200万円。B氏のマンションは800万円。その差は2400万円。なぜ、これほどまでに差がついてしまったのか。
日本という国は、すでに膨張期を過ぎている。人口も、経済も、ダウンサイジングの時代に突入した。住むため、働くためのスペースも以前ほど必要としなくなった。つまりは、不動産に対する需要全体が縮んでいる。その縮み方は一様ではない。場所によってかなりの偏りがある。その差が、A氏とB氏のマンションの評価額に表れてしまったのだ。
マンション格差
今月、『マンション格差』(講談社現代新書)という拙著を上梓した。マンションという住形態は、いまや日本の都市に住む人間にとってはなくてはならないものとなっている。東京や大阪などの大都市に限らず、政令指定都市クラスの都会でマイホームを求めるならば、住形態は分譲マンションが主流であろう。
しかし、分譲マンションという住形態はこの国に登場してまだ60年ほどでしかない。実のところ、その法整備も未熟なところが多々ある。すでに、建替えや区分所有のあり方においてさまざまな問題が生じている。行政側は大きな問題がクローズアップされるたびに継ぎ足しのように新たな法をつくったり、既存の法令を変更したりしてきた。しかし、いまだに万全とはいいがたい状態だ。
『マンション格差』 ◆本書のおもな内容◆ 第1章 マンションのブランド格差を考える―最初に格差をつけるのはデベロッパー 第2章 管理組合の財政が格差を拡大させる―大規模修繕工事「割高」「手抜き」の実態 第3章 価格が落ちない中古マンションとは―市場はいかにして「格付け」するのか 第4章 マンションの格差は「9割が立地」―将来性を期待「できる」街と「できない」街 第5章 タワーマンションの「階数ヒエラルキー」―「所得の少ない低層住民」という視線 第6章 管理が未来の価値と格差を創造する―理事会の不正は決して他人事ではない 第7章 マンション「格差」大競争時代への備え―賃貸と分譲を比較検討する 特別附録 デベロッパー大手12社をズバリ診断