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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

ジカ熱、国内流行の危険高まる…性交渉や接触のみで感染の可能性、脳異常や死亡例も

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長
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 では、日本にジカウイルスが侵入してくれば、どんなことが起こるだろう。森澤雄司・自治医科大学感染症科科長は「デング熱など他の熱帯感染症と比較して、基本的にはマイルドな感染症」だという。感染しても75%の人は、無症状で自然に治癒する。

 問題は胎児に奇形を起こすことだ。日本の国立研究機関でジカウイルスを研究している友人は、「ジカ熱を発症した妊婦の場合、小頭症のリスクは0.8~13%と推定されている」という。無視できない数字だ。

 問題は小頭症だけではない。重症例は流産や死産となるが、そのリスクを評価した疫学研究は存在しない。胎児への影響は過小評価されていると考えたほうがいい。

 さらに問題なのは、奇形がないからといって、正常とは言えないことだ。最近、出産時の頭囲は正常でも、脳に異常のある胎児の存在が報告された。前出の森澤医師は「胎内でのジカウイルス感染が、出産後に脳の発達を阻害する可能性は否定できない」という。

性行為でも感染

 ここまでの話はジカウイルスの妊婦への影響だ。ジカ熱が問題を起こすのが妊婦だけなら、妊婦が蚊に刺されないように注意すればいい。

 ところが、これだけでは済みそうにない。最近、ジカウイルスが性行為で感染することが明らかとなった。特に危険なのは男性から女性への感染だ。ジカウイルスは精巣で増殖し、精液を介して感染する。ジカ熱を発症してから2カ月後の男性の精液から、ウイルスが検出されている。

 海外でジカウイルスに罹患した男性が、帰国して性交渉をもち、相手が妊娠すれば、小頭症を発症する可能性がある。このルートで感染するなら、蚊の対策をしているだけでは済まない。

 最近、蚊や性行為以外の感染ルートも報告された。米国のユタ州で、海外でジカウイルスに感染し、帰国後に発症した人物を看病していた家族がジカウイルスに感染したのだ。ユタ州には、ジカウイルスを伝搬する蚊はいない。接触感染の可能性が強い。これは性行為以上に予防が難しい。ジカウイルスがいったん国内に入れば、予想外の広がりを示す可能性がある。

 実は、ジカウイルスが問題を起こすのは、胎児だけではない。成人にも障害を与え得る。ギラン・バレー症候群という神経難病だ。これはウイルス感染などの契機に免疫異常が起こり、運動神経が障害される。手足が自由に動かなくなることが多いが、呼吸筋が犯されれば、人工呼吸が必要になる。多くは半年から1年程度で回復するが、2割になんらかの神経の後遺症が残り、5%程度は死亡する。

 2013~14年にかけて、南太平洋の仏領ポリネシアでジカ熱が大流行したが、その際、42人がギラン・バレー症候群を発症した。これは例年の発症率の約20倍だ。16人(38%)が集中治療室に収容され、12人(29%)が人工呼吸管理となった。ポリネシアでは、約3万2000人が感染したと推定されているため、発症率は約0.1%だ。日本でジカ熱が大流行すれば、集中治療室が足りなくなるかもしれない。

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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