
暑くて湿気が多い夏が過ぎ、爽やかな秋がやってきた。秋といえば「食欲の秋」であり、「スポーツの秋」でもある。ハイキングに、ウォーキング、テニスにと、存分に筋肉を動かしてスポーツを楽しんでもらいたい。
筋肉は姿勢を正したり、手足を動かしたりする“器械”という認識が一般的だ。しかし、体重の約40%(男性では約45%、女性は約36%)が筋肉で、人体最大の器官なのであるから、筋肉を動かさずして、鍛えずして、健康にはなり得ないのである。
人体の筋肉は、約200種、650個も存在し、そのなかで最大の筋肉が大臀筋(尻の筋肉)と大腿四頭筋(太もも)である。筋肉の生理的効能を以下に列挙してみる。
(1)体温の産生
人間の体温の40%以上は筋肉より産生されており、筋肉は人体最大の産熱器官である。体温が1度下がると代謝(metabolism)は約12%減弱する。今、日本の男性の半分以上が「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」に悩んでいる。「内臓脂肪症候群」は意訳であり、「metabolic syndrome」の「metabolic」=「代謝」なのであるから、「代謝症候群」、もう少しわかりやすくいうと「代謝低下症候群」が正しい和訳である。
昭和32(1957)年の日本人の脇下平均体温は、36.9度であったという。60年後の現在のそれは35.8~36.1度くらいなので、約1度低下している。前述の通り、1度の体温低下=12%の代謝低下であるから、体内の糖や脂肪などが十分に燃焼されずに燃え残り、高血糖(糖尿病、高脂血症、肥満)、つまりメタボが発現するわけだ。
体温低下は「メタボ」のみならず、肺炎などの感染症、アレルギー、がん、うつ病など、あらゆる病気の要因になる。なぜなら1度の体温低下で免疫力が約30%低下する、とされているからだ。
交通機関の発達、電気洗濯機や掃除機の普及により、ウォーキングや肉体労働の不足に陥り、筋肉を動かす機会が減ったことが、日本人の体温低下の主な原因である。
(2)心筋の毛細血管の数の増加、狭心症、心筋梗塞の予防
肉体労働者やスポーツマンの冠動脈(心筋に栄養を送る動脈)の内径は大きく、心筋の毛細血管の数も多く、冠動脈にバイパスができていることが多いので、狭心症や心筋梗塞にかかりにくい。
(3)骨量を増加させて、骨粗しょう症の予防、改善をする
「骨は加えられた力に反応して強くなる」(Wolffの法則)ので、筋肉運動をすると骨に負荷がかかり、骨量が増加して、骨が強くなる。「弱い筋肉には弱い骨」が「強い筋肉には強い骨」が存在するのである。