牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

タワーマンション購入の悲劇…25年前の郊外戸建て購入者がたどった悲劇の再来か


 織部一家は、バブル絶頂期に家探しに奔走し、都心まで遠いニュータウンの中の中古団地を買う。駅からはもちろんバス便。購入価格は当時で5200万円。4200万円で30年ローンを組んだものの、夫の勤めるソフトウェア会社はその後、吸収合併の憂き目にあい、夫はリストラで役職を降格、給料は激減となってしまう。

 二人の子供のうち、長男は大学を卒業し高校の先生になるのだが、妹は学費を教育ローンで補わなければならず、卒業した今は正規雇用につけずにフリーター、教育ローンの返済原資が滞る事態になっている。

 夫は住宅ローンの支払いができず、妻は弁当屋でパートアルバイトをしながらなんとか生活を続けている。恨まれるのが、あの頃、住宅神話を信じ切って多額のローンで家を買ってしまったことだ。団地の価格は暴落。売りに出したところで買手もいない。住宅価格は暴落しても、ローン残高は暴落してくれない。
 
 この話は、現在のニュータウンの抱える実情を活写している。管理組合や自治会が高齢化して、大規模修繕や建替えなどが不可能であるさまを描き、高齢者が中心となる共同体で生じるさまざまな問題にも光を当てている。

 さて、この話を91年のドラマ『それでも家を買いました』の山村夫妻に当てはめると、どんなドラマができあがるのだろうか。

 山村夫妻も今は50代だ。91年に購入した城山町を舞台に、もう一度登場してもらうことにしよう。

 夫婦はおそらく城山町に新居を構えたのち、2人くらい子供(長男・長女)をもうけている。子供たちは大学を卒業、または在学中。これは『ニュータウンは黄昏れて』のストーリーとまったく一致する。

 山村雄介の会社は比較的規模の大きい製造業だった。その後の日本経済の盛衰のなかで、倒産や中国企業に吸収合併されていてもおかしくはない。子供たちの就職は、彼らバブル世代とはまったく事情が異なる氷河期。長男は時代を反映して引き籠もりから就職できずにフリーターに。長女はお父さんがリストラの憂き目にあい、泣く泣く教育ローンで大学へ。夜は教育ローンの返済のために居酒屋でアルバイト。

 さて、山村雄介は何を想うのだろうか。輝かしかったバブルの絶頂期に、完全に信じ込んでいた「住宅神話」。うまくいくはずだった人生が、会社からはリストラ。もはや50代では新たな未来を展望できない。

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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