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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

「ドイツ発の世界経済危機」が現実味…アメリカに潰されるドイツ

文=渡邉哲也/経済評論家
「ドイツ発の世界経済危機」が現実味…アメリカに潰されるドイツの画像1ドイツ銀行(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ銀行信用不安が再燃している。これは、モーゲージ担保証券(MBS)の不正販売問題について、アメリカ司法省から最大140億ドルの罰金の支払いを求められたことに端を発するものだ。

 ドイツ銀行とは、フォルクスワーゲンなど大企業のメインバンクであり、ドイツ最大の銀行である。各種報道によると、最終的には40~50億ドルの支払いで合意すると見られているが、その場合はドイツ銀行が準備済みの引当金(約50億ドル)の範囲内に収まることになり、経営危機は回避される見込みだ。

 そうした報道を受けて、一時は最安値を更新したドイツ銀行の株価は回復基調にあるが、情報の出どころがはっきりしないため、実状が見えてこないのが現実だ。

 逆に、危機回避を否定するような情報が出てくれば、今度は株価が反転して、より厳しい状況に陥る可能性もある。2008年のリーマン・ショックのとき、楽観的な報道と悲観的な報道が交互に飛び交ったため、実態が見えにくくなり、その混乱が危機を悪化させたが、再びそうした事態を招きかねない。

 構図としては、引当金内に収まる金額で解決したいドイツ銀行と、妥協したくないアメリカ当局というかたちになるだろう。ドイツ銀行は、かつてのサブプライムローン問題でアメリカの金融市場を危機に陥れた“戦犯”であるため、アメリカとしては簡単に折れるわけにはいかない。

 しかし、ドイツ銀行の危機は自国の金融市場にとってもリスク要因である上、世界の市場を混乱させることにもなるため、アメリカは「混乱を招いた当事者にはなりたくない」というのが本音だろう。また、政治的には大統領選挙を控えているため、「現政権下で問題を解決して、無駄な混乱は避けたい」という思惑もあるはずだ。

欧州の銀行が行った“会計のマジック”

 拙著『欧州壊滅 世界急変』(徳間書店)でも指摘しているが、今回のドイツ銀行の危機の背景には、ヨーロッパの金融機関全般が抱える構造的な問題がある。

 リーマン・ショック後の08年10月、ヨーロッパの金融機関は会計基準の変更を行った。保有する債権を「満期目的」と「その他」に再分類し、「満期目的」については所得原価をベースに資産計上ができるようにしたのだ。

 これは、言い換えれば「時価評価の放棄」であり、金融機関の経営の実態を不透明化させるものであった。それによって、たとえばドイツ銀行は約8億4500万ユーロの評価損の計上を、約8億2500万ユーロの黒字に転換させている(08年第3四半期の税引き前)。これは、ある意味で「会計のマジック」であり、不良債権が減少し続ける状況下であれば問題ないが、逆の場合は非常に危険な手法といえる。

 その後、ギリシャの債務危機などがヨーロッパの金融市場を襲ったが、この会計基準の変更によって、各銀行は損失の計上を逃れることができた。

 また、ヨーロッパは10年末に予定されていた銀行の自己資本比率規制の厳格化(バーゼル2・5)の実施を11年末まで延期した上、さらに厳しい「バーゼル3」の実施も12年から14年まで大幅に延期している。当初のスケジュールで実施した場合、ほぼすべての主要銀行が自己資本の基準を満たしていなかったからだ。

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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