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瀕死のスクーター&バイク市場が地盤沈下…熾烈販売戦争のホンダとヤマハ発が提携

文=河村靖史/ジャーナリスト
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瀕死のスクーター&バイク市場が地盤沈下…熾烈販売戦争のホンダとヤマハ発が提携の画像110月5日、ホンダとヤマハ発動機の会見の模様

「私が入社したのはHY戦争(1970年代後半~80年代前半:詳細後述)に負けた年。一律で5%の減棒になったが、今の人たちに、しこりやわだかまりはない」(ヤマハ発動機・渡部克明取締役常務執行役員MC事業本部長)

 本田技研工業(ホンダ)とヤマハ発動機は10月5日、業務提携に向けて検討することで合意したと発表した。二輪車世界トップのホンダと、2位のヤマハ発は、長年にわたるライバル同士の関係であるだけでなく、約30年前には泥沼の販売競争を繰り広げてきた。その2社が手を組む背景にあるのは、激変する市場に対する危機感だ。

 ホンダとヤマハ発の提携内容は、50cc原付スクーターのOEM(相手先ブランドによる生産)供給、次期50ccビジネススクーターの共同開発とOEM供給、原付1種クラスの電動二輪車の基盤づくりの協業の3点。

 スクーターのOEMでは、ホンダが熊本製作所で生産する「タクト」と「ジョルノ」をベースに、専用デザインを採用したモデルを2018年をメドにヤマハ発にOEM供給する。ヤマハ発はこれらモデルを、国内市場向けスクーターの主力モデル「ジョグ」「ビーノ」として販売する。ビジネススクーターは、日本国内市場に投入しているホンダの「ベンリィ」とヤマハ発の「ギア」の次期モデルについて共同開発した上で、ホンダからヤマハ発にOEM供給する。

 これに加えて、航続距離、充電時間、性能、コストの面で競争力の高い電動二輪車での協業を検討する。協業によって生み出す電動二輪車関連技術については、同業他社や異業種にも広く提案していく。

異例の提携の背景

 ホンダとヤマハ発の業務提携が実現するのは、日本国内の二輪車市場、特に排気量50ccクラスの原付1種市場に対する危機感がある。80年の国内二輪車市場は320万台、このうち原付1種で190万台あった。それが2015年には二輪車市場が40万台、原付1種が20万台にまで縮小している。国内は電動アシスト自転車や軽自動車の普及など、近距離の移動手段が多様化していることや、若い世代がバイクに興味を持たないことなどを理由に、国内二輪車市場は長期低落傾向が続いている。

 また、普通運転免許で乗ることができる原付1種の排気量50cc以下の車両は、グローバルでは日本と欧州の一部だけ。アジアを中心とした小排気量スクーター市場は、排気量125ccが主流で、日本の原付1種は、いわばガラパゴス化している。

 市場が縮小している日本の原付1種市場を維持するため、二輪車メーカーは努力してきた。スズキは川崎重工業と提携して、スズキから川崎重へスクーターをOEM供給することを模索したが破談、提携を解消した。ヤマハ発は、原付1種の生産を日本から台湾に移管している。ホンダは昨年から原付1種スクーターの生産を国内に移したものの、それ以前はタイや中国で生産して日本に輸入していた。

 一方で、原付1種を含む二輪車の排ガス規制は今後も段階的に強化される見通し。国内二輪車メーカーは、規模が小さい国内市場に、開発投資をどこまで振り向けるかが大きな課題だった。

「排ガス規制への対応が難しく、50cc事業の継続を検討した結果、提携の道を選択することにした」(ヤマハ発・渡部常務)

過去には激しいシェア争い

 ただ、ヤマハ発がホンダと手を組むことに、業界では驚きの声があがる。両者は70年代後半から80年代前半にかけて激しいシェア争いを繰り広げてきたからだ。国内二輪車市場シェアトップだったホンダをヤマハ発が追撃、新型車を相次いで投入するとともに、値引き攻勢をかけた。ホンダもこれに対抗、両社の頭文字をとって「HY戦争」と呼ばれた。

「原付スクーター3台購入すると、もう1台オマケでついてくる」という手法や、定価の7割引など、競争は泥沼化し、最終的にヤマハ発が大量の在庫を抱えて業績が悪化。HY戦争はホンダが勝利して終了した。HY戦争で深い傷を負ったヤマハ発は、その後も二輪車事業でホンダの後塵を拝しており、ホンダに対する恨みは深い。

 にもかかわらずホンダと提携するヤマハ発は、「複数の二輪車メーカーを検討したが、総合的な判断でホンダを選んだ」(ヤマハ発・渡部常務)としている。50ccスクーターを製造している二輪車メーカーが限られる上に、厳しい排ガス規制に対応するための投資できるのが、事実上ホンダに限られるためとみられる。提携は今年2月、ヤマハ発からの提案を受けて水面下で交渉してきた。

 ホンダとしては、ヤマハ発からの提携申し入れは「ウェルカム」だ。ヤマハ発との提携についてホンダの青山真二取締役執行役員・二輪事業本部長は「一緒に国内の二輪車文化を盛り上げるのに、相反することはない」としている。かつては激しいシェア争いを繰り広げてきたヤマハ発だが、グローバルでの二輪車販売台数、二輪車の商品ラインナップからいっても、すでにホンダの「敵」ではない。

 しかも、ヤマハ発向けOEMによってホンダの二輪車を製造する熊本製作所の稼働率がアップしてコスト低減が図れ、縮小する国内の原付1種市場に商品展開し続けることができる。しかも、ヤマハ発がOEM車を販売するため、国内市場での価格競争も避けられる。

 強化される排ガス規制と、原付1種市場の縮小によって手を結ぶことになったかつてのライバル。ただ、両社が提携しても、原付1種がグローバル市場で見れば独自のものでガラパゴス化しており、市場の先行きが厳しいことに変わりはない。国内二輪車市場が活性化する道は険しい。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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