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スズキ、「自前主義」破綻しトヨタの軍門に下る…鈴木修会長86歳で異例の経営トップ続投宣言

文=編集部
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スズキ、「自前主義」破綻しトヨタの軍門に下る…鈴木修会長86歳で異例の経営トップ続投宣言の画像1スズキ・鈴木修会長(つのだよしお/アフロ)

 最近、スズキの社内や販売店では、このように囁かれている。強い危機感の表れである。

「(ウチは)先端技術では、いつも周回遅れ。自動運転車などに関してはレースにも参加していない」

 トヨタ自動車の豊田章男社長とスズキの鈴木修会長は、10月12日午後6時半から東京都文京区のトヨタ東京本社で開かれた緊急記者会見に出席し、業務提携の交渉入りを発表した。

 資本提携について両氏は「じっくり考える。これからだ」としたが、スズキの自前主義はすでに破綻している。トヨタを後ろ盾にしなければやっていけなくなったスズキにとって、資本提携は避けて通れない道だ。エコカー分野や自動運転に欠かせないAI(人工知能)など、具体的な提携内容が明らかになった時点で、トヨタのスズキへの10%程度の資本参加が決まるとみられている。

 12日の共同会見で鈴木氏は「自動車技術を取り巻く環境が変化するなか、良品廉価な車づくりをやっていくことでは行き詰ってしまうのではないか、という危機感を持っている。(トヨタに)協力してもらうのが大事」と心境を吐露した。スズキ社内や販売店で急速に高まってきた危機感が、スズキのドンを突き動かしたといえる。

 世界的なメーカーでさえ、開発に乗り遅れれば生き残れないという過酷な現実がある。ましてやスズキは、世界販売台数で第10位(2015年実績)。確かにインドでは強いが、軽自動車の国内トップの座をトヨタの子会社となったダイハツ工業に明け渡すなど、先々の展望が明るいとはいえない。

鈴木会長、トヨタ名誉会長に泣きついた

 両社提携の発表文は、鈴木氏の「(トヨタの)豊田章一郎名誉会長にまず相談させていただいた」とのコメントを載せる、異例の内容となっている。

「協力していただけないかと、思い切って相談したのは9月。協議していいのではと言っていただき、喜んだ」(鈴木氏)

 章一郎氏は章男氏の父親だ。鈴木氏は「技術開発など、スズキの弱点や将来への不安について章一郎氏に何度も相談しており、良好な関係にある」(トヨタの首脳)という。

 トヨタがスズキの“危機”を救うのは、今回が初めてではない。1976年、スズキは排ガス規制への対応が遅れ、クルマをつくれなくなってしまい、創業以来の深刻な経営危機に陥った。この時、役員だった鈴木氏がトヨタの豊田英二社長(当時)のもとに駆け込み、ダイハツからエンジンを供給してもらった。

 鈴木氏の長男で社長の鈴木俊宏氏は、スズキに入社する前の約10年間、トヨタグループの大手自動車部品メーカー、デンソーで修業した。

 豊田家と鈴木家の親密な関係に、鈴木氏は今回も頼ったことになる。トヨタグループの創業者、豊田佐吉翁とスズキの創業者、鈴木道雄氏の発祥の地は、共に遠州(現在の静岡県西部)。現在も創業家の出身者がトップを務めるなど共通点が多い。

 鈴木氏は78年に社長になった時、先代の鈴木俊三氏(スズキ2代目社長)から「何かあったらトヨタに(駆け込め)」と申し渡されたというエピソードが残っている。俊宏氏を社長にした折にも、豊田章一郎氏のもとへ俊宏氏を連れて挨拶に行っている。同業他社で社長をお披露目したのはトヨタだけだ。

スズキのトヨタグループ入りは規定路線

 2月22日付当サイト記事『スズキを愛しすぎた鈴木修会長、非情な決断か…長男社長切り&トヨタに丸飲みされる覚悟か』において、スズキ、トヨタ提携の内情を紹介した。10月の提携を先取りした内容だが、ポイントは「トヨタの総合企画部が策定した戦略マップに『スズキとの提携』が重要な検討テーマとして載っているとの情報もある」という点だ。トヨタにとって、スズキのグループ入りは“規定路線”なのである。

 トヨタは当面、インドで圧倒的なシェア(40%)を握るスズキ(マルチ・スズキ)との協業によって、インドでのシェア拡大を目指す。

 スズキは独フォルクスワーゲン(VW)が保有していたスズキ株式(19.9%)を4602億円で買い戻した。そのうち10%程度をトヨタに割り当てるという線が有力だ。鈴木氏は「自主独立路線」のもとで経営の最前線に立つと、10月12日の記者会見で明言した。したがって、一気に19.9%分すべてをトヨタに譲り渡すことはしないだろう。それでも今年度(17年3月)中に資本参加は実現することが確実視されている。

肉親よりスズキを愛する鈴木氏

 スズキでは15年6月30日、父から長男へと社長が交代した。俊宏氏が社長兼最高執行責任者(COO)に就き、鈴木氏は会長兼CEOとなった。株式総会からわずか4日後という異例の社長交代劇だったが、これはVWとの提携解消後を見据えたものといわれた。VWから買い戻した株を切り札に、鈴木氏が提携交渉を仕切り、俊宏氏は経営の実務を遂行するという役割分担である。

 しかし、俊宏氏の力不足は年々、はっきりしてきた。軽自動車のSD(スズキ・ダイハツ)戦争ではトップの座を1年で明け渡した。集団指導体制といえば聞こえがいいが、俊宏氏のガバナンス(企業統治)がまったく見えてこない。

 スズキはインドに救われている状況で、インド以外では販売台数を大幅に落とす懸念がつきまとう。

 近い将来、トヨタが20%の株式を握り筆頭株主になれば、トヨタから社長を招くこともあり得る。鈴木氏は人・モノ・カネをトヨタから調達する腹づもりなのかもしれない。

トップに居座り続ける鈴木氏

 12日の記者会見で豊田氏は、「長年、自動車産業のためにがんばってきた2人だからこそのあ・うんの会話だった」と、父・章一郎氏と鈴木氏の関係をこう評した。「『やりましょうよ』を遠州の言葉でいえば『やらまいか』。グローバル競争を生き抜き、革新的な技術で未来を切り開くことが求められる今、最も必要なのが『やらまいかの精神』。もっといい車づくりに向けた『やらまいかの提携』だ」と締めくくった。

 資本・業務提携は、早ければ年内にもまとまるとみられているが、乗り越えなければならないハードルもある。

 軽自動車の国内販売でダイハツとスズキのシェアは合わせて6割を上回る。提携が独占禁止法に抵触しないかとの懸念がある。豊田氏は「自由な競争を行うことが前提なので、必要なら公正取引委員会に話を聞きたい」とした。

 スズキ側には、ワンマン経営でスズキを率いてきた鈴木氏の86歳という年齢がネックになる。

「鈴木会長は最大の(経営)課題のメドをつけたのではないか。これを機に俊宏社長を前面に出すのか」と会見で質問されると鈴木氏は、「経営者である以上は、挑戦や社会のため経営することはいつまでたっても変わらない。あなたの言うことは参考にさせてもらうが、私は全然違う」とスズキのトップを続けると公式に宣言した。

 スズキは今春、発覚した燃費の不正測定問題でガバナンスが問われた。この問題でも鈴木氏は自ら謝罪会見に臨んだ。「ポスト鈴木氏」をどうするのか。トヨタからトップを派遣してもらい俊宏氏は会長になるのか。誰が経営するのかという、最重要課題は残ったままだ。

 欧米各社に比べて“仲間づくり”が遅れていたトヨタは、スズキ以外にも提携を働きかけていくことになる。その結果、国内の自動車メーカーはスズキが新たに加わったトヨタグループ(ダイハツ工業、日野自動車プラス富士重工業、マツダ、いすず自動車)、日産自動車・ルノー・三菱自動車連合、そして本田技研工業(ホンダ)の3つの陣営に収斂することになった。
(文=編集部)

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