
本連載では前回、前々回とマーケティングにおける「Product」(製品)について解説してきたが、今回はそれら製品の「ライフサイクル」について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏が解説する。
「製品ライフサイクル」は人間の一生に似ている
――せっかく生み出した製品でも、気がついたら市場からなくなっていることはよくあります。これはなぜでしょうか。
有馬賢治氏(以下、有馬) 各製品にはそれぞれ、マーケティング理論でいうところの「製品ライフサイクル」というものがあります。その製品が市場に売り出されて、販売実績を伸ばし、やがて廃れていく様子を生物の一生に当てはめた理論です。この前提には、製品の売上は時間とともに増減し、製品の寿命は限られている、という考え方があります。
――製品ライフサイクルは、どのような段階を経て進んでいきますか。
有馬 製品が市場に導入されて販売が開始された時点から徐々に販売数が伸びていく期間を「導入期」、製品が市場に受け入れられて定着に向かっていく期間を「成長期」、製品が市場の潜在的購入者の多くに浸透する期間を「成熟期」、徐々に市場からなくなっていく期間を「衰退期」と呼び、この4段階に分類されています。人間でいうところの「幼児期」「青年期」「壮年期」「老年期」の分類に似ていますね。
――その段階によって利益幅も変化していくということですね。
有馬 はい。「導入期」はそれまでの開発費や市場導入にあたっての広告費など多額の費用が発生するため、利益が出ないことも多いです。今でいうところのVR(仮想現実)端末などですね。火を使わない次世代タバコ「IQOS(アイコス)」などのように、世間から認知されて急速に普及しはじめると「成長期」に入ったといえます。この期間は大幅な利益が期待できます。現在のスマートフォン(スマホ)や多くの家電のように「成熟期」となると、他社との競争が激化して値引きの必要性にも迫られてくるので、利益はある程度頭打ちとなります。そして、従来型電話、いわゆるガラケーのように製品の売上と利益がともに減少していく「衰退期」へと向かいます。