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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

政府の経済政策は、経済を悪化させるという歴史的事実…不況期は「何もしない」が最善

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
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 財政収支をみると、30年度こそクーリッジ前政権から引き継いだ黒字を維持したものの、31年度は赤字に転じ、32年度には赤字額が国内総生産(GDP)の4%に達した。国内総生産が4年間で3割近く急減した影響もあるが、一方で財政赤字の絶対額も5億ドル(31年度)から27億ドル(32年度)へと5倍強に跳ね上がっており、対GDP比率を押し上げた(『学校で教えない大恐慌・ニューディール』<ロバート・マーフィー著/マーク・シェフナー他訳、大学教育出版>)。

 財政赤字の対GDP比4%という数字は、減税やイラク戦争で赤字が大きく膨らんだジョージ・ブッシュ(子)時代の3.6%(2004年度)を上回る高水準である。フーバーの政策は、積極的な財政出動を唱えるケインズ主義そのものの対応だったといえる。

市場の自由な調整

 このようにフーバーは財政支出を積極的に増やしており、財政出動に消極的だったという俗説は誤っている。さらに重要なのは、そうした財政出動にもかかわらず、経済が回復しなかったという事実である。

 フーバーと対照的に、不況時に政府は手出しせず、市場の自由な調整に任せたほうがよいという伝統的な考えは、当時の政権内にもあった。その代表的論者は財務長官のアンドリュー・メロンである。

 フーバーより20歳近く年長のメロンは、南北戦争後の1870年代に起こった恐慌について、政府の景気対策などなかったが、わずか1年のうちに経済は再びフルスピードで作動し出したと話して聞かせた。メロンが主張した処方箋は「労働を清算し、株式を清算し、農民を清算し、不動産を清算」し、経済から「腐敗物」を「一掃」し、高い生活費を引き下げ、勤勉と効率的な事業を奨励することだった。

 これまで本連載でもたびたび取り上げたように、公共工事やデフレ対策、賃金の人為的な引き上げといった政府の経済対策は、経済を改善するどころか、むしろ悪化させる。メロンの意見は過激に聞こえるかもしれないが、正しいことを言っている。

 しかしフーバーは、以前の経済構造は単純で、当時のやり方はもはや通用しないとして聞き入れなかった。メロンから「人間の本質が60年で変わることはない」と反論されたが、経済介入の方針を頑として変えようとしなかった。

 フーバーは公共事業だけでなく、企業に労働賃金の引き下げをしないよう要請したり、農産物を買い支えたり、経営危機に瀕した銀行や企業に公的融資を行ったり、さまざまな経済介入を行った。フーバーの後任大統領、フランクリン・ルーズベルトが行ったニューディール政策の原型はフーバーの政策にあると指摘する経済学者もいる。

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