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江川紹子の「事件ウオッチ」第66回

【欅坂46のナチス風衣装】、「悪気はない」「抗議はいきすぎ」は通用するのか?

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 日本にいると、その感覚はわかりにくい。ならば、こんな事例も併せて考えてみたらどうだろうか。

原爆被害、原発事故が笑いにされたら

 11年にイギリスのBBCがコメディトーク番組の中で、戦争末期に広島と長崎で原爆の被害に遭った二重被爆者の山口彊さんを、ジョークの話題にしたことについて、番組を見た在英日本人が在英日本大使館に連絡し、大使館がBBCに抗議した。BBCは謝罪したが、イギリスの中では「なぜ謝罪するんだ」「何が問題なんだ?」という声が少なくなかったという。

 日本では、「二重被爆者を嘲笑」「被爆者を愚弄」「二重被爆者を笑いのタネ」などと報じられたが、ジャーナリストで現在はBBC.jp編集長の加藤祐子さんは、「嘲笑や愚弄というよりは、日本人が被爆体験に抱き続けるヒリヒリした痛みと悼みに対して無理解で無神経だったことによる、過ちだった」と書いている。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する表現が問題になったこともある。

 12年には、フランス国営テレビ「フランス2」のバラエティ番組が、サッカー日仏戦で活躍したゴールキーパーの川島永嗣に腕が4本ある合成写真を映し、司会者が「福島(第1原発事故)の影響としても驚かないね」などと発言。スタジオ内で笑いと拍手が起きたという。日本政府の抗議に対し、テレビ局側がパリの日本大使館にお詫びを表明。日仏外相会談でも日本側(玄葉光一郎外相)が、「残念な報道だ」と遺憾の意を示し、仏側(ファビウス外相)が「申し訳ない」と述べた。

 13年には、フランスのカナール・アンシェネは、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、20年夏季五輪・パラリンピックの東京開催が決まった直後、福島第一原発事故と関連づけて、奇形の力士を描いた風刺画を掲載。手や足が3本ある力士が土俵で向き合い、防護服姿のリポーターが「すばらしい。フクシマのおかげで相撲が五輪競技になった」と中継している絵だった。

 これに対し、在仏日本大使館が「被災者の心情を傷つけるものであり不適切で遺憾」と抗議。これに対し、同紙は「ユーモアを示したからと言って、被災者たちを侮辱することにはならない」「もし憤慨する理由があるとすれば、それは日本政府が危機を扱ってきたやり方だ」「問題の本質は東京電力の管理能力のなさにあり、怒りを向けるべき先はそちらだ」などと反論した。

 他国のメディアとはいえ、政府が抗議することについては議論が分かれるだろうが、私自身は、原発事故に絡む“奇形ネタ”には(国の内外を問わず)非常に不快感を覚えたし、こうした情報の積み重ねが、福島に対する差別や偏見の固定化につながるのではないかと憂う。日本政府や東電の対応を批判したり脱原発を訴えるために、福島を揶揄したり差別につながる表現をする必要はない。自分たちにとっては面白い、あるいは有益な表現であっても、それがただでさえ震災と事故で辛い状況にある地域や人々の苦悩に追い打ちをかけるような場合には、「表現の自由」の行使に抑制的になるべきだろう。同じことが、ナチスのシンボルを巡ってもいえるのではないか。

「不快感を与えても、弊害をもたらしても、それによってどれほど批判を受けてもいいから、表現の自由を行使したい」という人たちならともかく、人々のロールモデルになりうるタレントやスポーツ選手、人々を楽しませたり、好感を持ってもらうのが大切なアイドル業界のようなビジネスでは、なおさら慎むのが当たり前ではないか。

 今回は、SWCの抗議があって謝罪することになったが、本当なら、このような“強面”の団体が出てくる前に対応してもらいたかった。もちろん、このような問題が起きないことが望ましいのは言うまでもない。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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