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日本、外国人労働者からも見放され未曾有の人手不足か…中国農民、日本に大量流入

構成=小野貴史/経済ジャーナリスト
日本、外国人労働者からも見放され未曾有の人手不足か…中国農民、日本に大量流入の画像1「Thinkstock」より

 深刻な人手不足解消のため、外国人技能実習制度とEPA(経済連携協定)の制度拡充と積極的活用に期待が高まっている。技能実習制度とは、外国人技能実習生が最長3年間、企業との雇用関係の下で技能の修得をするもので、厚生労働省は同制度の目的を「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」としている。さらに日本政府は現在、EPAに基づき、ベトナム、フィリピン、インドネシアから介護福祉士志望者を受け入れており、資格を持つ外国人に在留資格を認める方針を示している。また、今開かれている国会で改正されたこともあって、技能実習生は職種によっては最長で5年の滞在も可能となった。

 では、これらの制度は国内の人材不足解消に有効なのであろうか。また、現状でどのような問題があるのであろうか。12月4日付当サイト記事『看護師資格取得に1人5千万円…外国人人材も病院も不幸にする制度の重大な欠陥』に引き続き、外国人労働者の実態に詳しい、丹野清人・首都大学教授に話を聞いた。

――日本では深刻な労働力不足を解消する方法のひとつとして、外国人労働者への門戸開放が指摘されており、そのために外国人技能実習制度やEPA(経済連携協定)の積極的活用が議論されています。しかし、これらの制度の目的は、外国人に日本で技能を身につけてから母国に帰って産業の発展に貢献してもらうことで、日本側の人手不足を補うことが目的ではありません。外国人技能実習制度やEPAについて、送り出す国の側はどのように評価していますか。

丹野 国によって違っているとしかいいようがありません。技能実習生の場合、75%ぐらいが中国人ですが、中国政府は非常に好意的に理解していると思います。農村戸籍の人たちの流出ルートになっているからです。

 中国では大規模な人口移動をコントロールする目的で、戸籍制度を農村戸籍と都市戸籍に分けて、農村から都市への流入に制限をかけようとしていますが、農村から都市に人口が流れています。しかし、こうした人々は農村戸籍を変えられないので、都市戸籍の国民と同等に居住や教育などの権利も主張できず、日本の非正規労働者のように不安定な身分に置かれています。失業者も多いのですが、その失業者を技能実習生として日本に回しているのです。共産主義の国で労働者に反乱を起こされたら困りますからね。

――反乱予備軍を日本に流しているのですか。

丹野 そうです。技能実習制度が始まった当初はそうではありませんでしたが、中国の経済発展によって生じた格差は、日本の正規労働者と非正規労働者以上です。その不満の捌け口を日本に流して、コントロールしている面が少なからずあるわけです。

――外務省や厚労省は中国政府の意図を、認識しているのでしょうか。

丹野 もちろん、わかっています。アメリカ政府は技能実習制度を人身売買と批判しましたが、中国政府は一度も批判したことがありません。中国政府にとって、技能実習制度がなくなってしまったら困るのです。日本と中国は悪い面で持ちつ持たれつの関係になってしまい、しかも、それが抜き差しならない状況になっています。

日本に来るメリットが薄れる

――技能実習生の人数は昨年15%前後増えましたが、まだまだ増え続ける状況ですか。

丹野 日本とアジア各国の経済格差が縮まるにつれて、日本で働くメリットは薄れてくるでしょう。例えば、技能実習制度が始まった1990年代は、日本とベトナムの1人当たりGDPの差が257倍でした。技能実習生の時給が300円しか払われないことが問題になったことがありましたが、時給300円で3日も働けば、当時のベトナムでは1カ月分以上の収入を稼げたのです。それが今では、1人当たりGDP格差は70倍と3分の1以下に縮まりました。中国との1人当たりGDP格差は20年前で70倍でしたが、今年は5倍強にまで縮まっています。

 ところが、日本の賃金水準は90年代からほとんど変わらず、横ばいが続いています。日本国内の賃金格差は、東京と沖縄を比較すると2倍の格差がありますが、2020年頃には中国の賃金水準が沖縄と同水準になる勢いです。その途端に来日数が減り始めるでしょう。

――賃金を目的に日本に来るメリットが薄れてしまいますね。

丹野 国内移動と国境を超える移動では、全然意味が違います。賃金格差が2倍なら、国内で移動することを選択するでしょう。それ以上開いて初めて、国境を越えて、生活環境を変えてでも移動してもいいかなと思うようになるのです。日本経済は人口減少によって水準を維持するのが精一杯ですが、相手国の経済はうなぎ登りに発展しています。日本は、今までと同じ条件では外国人が来なくなると考え直すべきです。

深刻な建設業の人手不足

――EPAについて疑問に思うことがあります。受け入れ枠の最大数はベトナム、フィリピン、インドネシアで、1国当たり看護師候補者が200人、介護福祉士候補が300人で、3カ国合計で年間1500人です。一方で、厚労省は2025年に介護人材が37万7000人不足すると予測しています。政府が力を入れるEPAの本当の目的が人手不足対策だとしても、EPAは人手不足対策としては、現実的とはいえない政策ではないのでしょうか。

丹野 確かに現実的ではありません。2015年度までにEPAで来日した看護師候補生で国家資格をパスしたのは累計で154人にすぎません。ただ、介護職以上に人手不足が深刻なのは建設業です。国土交通省は、2016年3月2日に公表している「建設業を取り巻く情勢・変化 参考資料」で、2025年には生産性の上昇があったとしても77万人から99万人の労働者が足りなくなるという見通しを示しています。しかも建設現場の作業は人に替わる手段がなく、マンパワーに頼らざるを得ないのです。各現場を定型化できる労働ではないので、例えばロボットでは対応できません。

 建設現場の作業は規格化できません。物件によって規模や耐震性、ITインフラなどさまざまな仕様が異なるため、現場作業は人手で対応するしかないのです。人手不足から逃れられません。

――今は東京オリンピックに向かって建設ラッシュが続いていますが、オリンピック後に景気が悪化すれば、建設需要も減って人手不足が緩和に向かうことも考えられますか。

丹野 東京五輪の後に不況がくれば、新規の建設需要は落ち着くかもしれませんが、その一方で都市インフラの更新が増えていきます。高度経済成長期に全国各地に造られたビルや道路やガス・水道設備などが東京五輪前後から更新期に入るため、一気に工事が増える見通しにあります。この工事は人手でしか対応できません。したがって、現場の人手不足は続くでしょう。

――とても外国人の受け入れで補えるような状況ではないですね。

丹野 外国人の受け入れは人手不足の緩和策にはなりますが、処方箋にはなりません。今の時点での痛みを若干和らげてくれるペインクリニックと同じです。技能実習生を受け入れれば、将来の経営がどうなるかはともかく、当面の人手不足倒産は回避できるという程度のことです。

 人手不足対策の処方箋は、あくまで自国民の労働者が入ってきたいと思えるような労働条件を示せる職場に変わることです。それが最終的な解決策です。それと同じ条件で外国人も受け入れないと、経済格差が縮まるにつれて、日本で働くメリットがなくなっていきます。その時代は日本人が思っている以上に急速に迫っています。

移民政策

――技能実習制度とEPAで人手不足に対応できないとなれば、いよいよ移民政策しか残されていないという事態になりませんか。

丹野 元日本銀行副総裁の岩田一政氏(日本経済研究センター代表理事)が移民政策の推進を主張しているように、今は移民政策を語ること自体はタブーではなくなりました。ただ政策にするには、まだまだハードルが高いのが現状です。

 私個人の意見としては、今の労働環境で外国人を増やすことには反対です。誰にとっても良いことがありません。まず日本人の労働条件を上げて、それでも採用できない領域に外国人を受け入れていかないと、最終的には日本全体が滅んでしまいます。

 建設業を例に取れば、日本人労働者が集まらないのは当然です。2010年と少し前のデータですが、公共事業の現場労働者の雇用保険及び社会保険・厚生年金の加入状況が元請では雇用保険87%、社会保険・厚生年金93%、一次下請では雇用保険72%、社会保険・厚生年金66%、二次下請では雇用保険53%、社会保険・厚生年金46%と下がっています。人手不足の状況にあって、社会保険や年金にも加入していない会社に、若い人が来てくれるはずがありません。

――そういう会社は就職先の候補にすらなりません。

丹野 来てほしいのなら、「せめて社会保険と年金に加入してくれよ」としか言いようがありません。そもそも社会保険や年金を払えないような会社が存続していること自体、問題だと思います。そういう会社でも存続できていることで、過当競争が起きているのです。社会保険と年金を支払える会社だけに集約するような産業構造の転換が必要で、構造転換をしないまま「人が足りない」と言って、保険も年金も払えない会社が人を採用してしまうのは最悪のパターンです。

――マトモな雇用のできる会社だけが生き残れるようにしなければなりませんね。

丹野 そうです。介護業界なども市場原理だけに任せないで、雇用条件が劣悪な事業者は淘汰されるという政策的な底上げが必要です。きちんと雇用できる会社にマーケットが集約されるように、行政側がある程度仕向けていくことが本来は必要で、それを実施しながら足りない部分は外国人で補う手段を取るべきです。

――技能実習生だけでなく、外国人労働者全体はどのぐらいまで増えそうだと見ていますか。

丹野 安倍政権が発足した当初は、外国人労働者は約70万人でしたが、毎年10万人ペースで増え続けました。そのうち3分の1が技能実習生です。今年末には100万人を突破するのではないでしょうか。でも、今の受け入れ政策では、そろそろ限界だと思います。次の政策を考えなければならないでしょう。

――外国人を受け入れ続けるために雇用環境を正常化する問題と、電通社員過労死問題をきっかけにした厚労省による同社強制捜査は、どこかで連動しているのでしょうか。労働基準監督署による是正勧告の扱いについて潮目が変わりましたね。

丹野 もちろん連動しているでしょうね。日本人に対する雇用環境を改善しないと、外国人に来てもらえなくなることを危惧した動きだと思います。厚労省だけでなく官邸の意向も働いているのではないでしょうか。政府は、ここまで対策を取っても人手が足りないという状況をつくりたいのでしょう。

――それは、移民政策への地ならしでしょうか。

丹野 移民政策までいくかどうかはわかりません。政府も移民という言葉を使わないでしょう。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)

小野貴史/経済ジャーナリスト

小野貴史/経済ジャーナリスト

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表
著書「経営者5千人のインタビューでわかった成功する会社の新原則」

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