宮崎駿ですら自分を捨てて仕事している?

――そもそも、どういう経緯で本書を出版することになったのでしょうか?

石井 実は最初、「自分が鈴木さんのことを書くなんて、おこがましくてできない」と思い、出版のオファーをお断りしたのです。すると、担当編集者が「鈴木さんではない人が書いた本が、今必要なんです。編集者として、一度も鈴木さんに会わずにこの本をつくりたい」という、興味深い口説き方をしてきた。

「面白いことを言うなぁ」と思って鈴木さんに相談すると、「いいじゃん、石井にしかできないことだし。俺は本が世に出てから、読むよ」とおっしゃいました。「なるほど、確かに僕にしか書けないことがある。自分が学んだことでも、誰かに必要とされているのかもしれない」と感じて、引き受けました。

――鈴木氏と編集者の後押しがあったのですね。

石井 「必要とされている」と感じることは、すべての仕事人にとって最も重要なことです。もし、僕が本業とは関係ないところで「本を書きたい」と言っても、おそらく出版されなかったでしょう。自分がやりたいことは、相手のしてほしいことではないのです。他者から「この仕事をしてほしい」と言われて初めて、自分がやるべきことが見えてくるのが、仕事の面白さだと思います。

 実は、突出した才能を持っている人たちこそ、自分を捨てて誰かのために仕事をしているのです。宮崎駿さんですら、「俺はそもそも、自分がやりたかったことをやったことがないんだ」と言っていました。宮崎さんはずっと、高畑勲監督の下で高畑さんが目指す映像を絵にし、監督となってからも、「お客さんが何を求めているか」を最優先に作品を作り続けてきた。「必要とされているから、やる」。そこから傑作が生まれているんです。

 たとえば、『千と千尋の神隠し』は観客動員数で日本新記録を達成しましたが、宮崎さんがやりたかったのは別の企画で、その企画を鈴木さんに反対されたため、その場で思いついたアイデアがきっかけで生まれました。世界一の監督が「自分のやりたいこと」にこだわっていない。だったら僕のような凡人が「自分のやりたいことだけをやりたい」なんて言えるわけがない。

――確かに、「自分がやりたい仕事はこれじゃない」と不満を漏らす人をよく見かけます。

石井 自分がやりたい仕事のために独立する人もいますが、そういう人は自分に求められていることが見えていないケースが多い。僕自身、もともと自我も自己主張も強い人間だったのでよくわかるのですが、特に若い人ほど「個性」を勘違いしがちです。僕が「自分を捨て」て気づいたのは、「自分らしさを持っている人ほど、求められた仕事をしている」という真実でした。

『自分を捨てる仕事術-鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド-』 「3年間、自分を捨ててオレの真似だけしてろ! どうしても真似できなかったところが君の個性だから」 アニメプロデューサー・石井朋彦。その真摯な仕事の根底にある「自分を捨てる仕事術」とは何か。 「自分のなかには何もない。何かあるとしたら、それは外、つまり他人のなかである」という真実を、強い筆力で伝える1冊。 スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫が若き著者に教えた、会話術、文章術、人身掌握術、トラブル対応ほか、具体的方法論のすべて。 amazon_associate_logo.jpg
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