自分がコンプレックスを感じた人を真似れば才能が開花する?

 ジブリで6年間、議事録をはじめ、人間関係、トラブルの処理、宣伝の手法に至るまで、さまざまな面で鈴木氏を真似し続けた石井氏。本書には「宮崎駿という人は、高畑勲という人の下で20年間、真似をし続けた人なんだ。考え方や立ち振る舞い、話し方。字まで真似たんだよ」という鈴木氏の言葉も紹介されている。

――その鈴木氏およびジブリからの独立を決めた理由はなんだったのでしょうか?

石井 究極に真似し続けていると、「これ以上真似できない」と感じる時期が来るんです。鈴木さんを尊敬しすぎて、一緒にやることがお互いにとってよくない状況になった頃に、他社から大きなチャンスをいただいたのです。本の出版もそうですが、「チャンスは自分でつくるのではなく、与えられるもの」だった。そこで、独立を決めました。

――石井さんのように、近くに理想的な「真似したい対象」がいる人は恵まれているようにも思います。周囲にそうした真似する相手がいない場合はどうしたらいいのでしょうか?

石井 本書を読んで下さった方から「自分のまわりには真似たい人がいないんです」と言われることがよくあります。でも、真似する相手は憧れの人だけとは限りません。僕は今も、ひとつのプロジェクトのなかで「真似る人」を決めて、コピーをしています。嫌いな人や会いたくない人、コンプレックスを感じた人を選ぶことも多い。

 真似る際のポイントは、行動や服装、持ち物、話し方など「型」から入ることです。思考や考え方をすぐに真似するのは困難です。真似し続けることで、相手から盗めるもの、決して盗めないものが見えてくる。良い部分も、そうでない部分も見えてくる。いったん自分の身体を通すと、それが自分にとって必要か否かもわかってくる。そうしているうちにコンプレックスも感じなくなり、自分の中に新たな才能を見いだせる事も少なくないのです。

――確かに、石井さんがコンプレックスを抱いていた映画プロデューサーの川村元気氏を真似たエピソードも印象的でした。ちなみに、石井さんが今「真似たい」人は誰ですか?

石井 先日、ある企業の社長さんの講演を聞く機会がありました。とても興味深いお話をしてくださったのですが、最前列に座っていた男性が、スマートフォンをいじったり、眠ったりしていた。僕はその態度にすごく腹が立ったのですが、社長さんはまったく気にしない素振りで話し続けていました。講演が終わってから、僕が所属する株式会社クラフターの古田彰一社長に報告すると「あの社長はすべてを見ていて、そういう人たちのことすら超越しているんだよ」──と。

 失礼な態度に対して感情をあらわにせず、本当に話を聞いてくれる人に語りかけるという姿勢に感銘を受けました。今の僕にはそれができていない。だからこそ、真似てみたいと思っています。

――ありがとうございました。

 自分を捨てて、人の真似をすることで、最終的に自分らしい仕事にたどり着く。石井氏は「人から見た自分が本当の自分。自分のなかには何もないんですよ」とも語る。もし「自分流の壁」にぶつかっている人がいるなら、本書が変わるきっかけのひとつとなるかもしれない。
(構成=真島加代/清談社)

●「株式会社クラフター

『自分を捨てる仕事術-鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド-』 「3年間、自分を捨ててオレの真似だけしてろ! どうしても真似できなかったところが君の個性だから」 アニメプロデューサー・石井朋彦。その真摯な仕事の根底にある「自分を捨てる仕事術」とは何か。 「自分のなかには何もない。何かあるとしたら、それは外、つまり他人のなかである」という真実を、強い筆力で伝える1冊。 スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫が若き著者に教えた、会話術、文章術、人身掌握術、トラブル対応ほか、具体的方法論のすべて。 amazon_associate_logo.jpg
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