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電通過労死事件直後に過労死増加させる法案成立を目指す安倍政権

構成=吉田典史/ジャーナリスト
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 ノルマを与えられると、多くの人がそれを達成したいと思うものです。責任感がある人ほどその思いは強いでしょう。そして、ノルマや目標を達成できなければ残業を増やし、休日も仕事せざるを得なくなるのです。

 しかも、この20年ほどは正社員の数が減る一方で非正規社員が増え、業務や仕事の量も増えています。仕事の質も専門化、高度化しています。本来は、仕事のあり方や仕方も改革をするべきなのですが、これらの部分が変わることなく労働時間の改悪が進んでいきます。そこも大きな問題なのです。

――残業代ゼロ法案について、ほかにも問題点や懸念点はありますか。

馬淵 いったん残業代ゼロ法案が成立すれば、政府は対象を順次広げていくでしょう。対象となる職種を増やし、やがては年収300~400万円の人たちも残業代ゼロになるだろうと指摘する声もあります。

 さらに、企画業務型の裁量労働制の適用業務を緩和し、営業職などに広げるための法改正の準備も進められています。裁量労働制では、あらかじめ労使が合意した時間を労働した時間とみなします。実労働時間は一切考慮されないため、営業職などの人はノルマを達成するため、「みなし労働時間」を超えて働いたとしても残業時間は支払われません。残業の規制がなくなれば、ノルマを達成するまで果てしなく長時間の労働をせざるを得なくなります。そうなれば、過労死の犠牲者は間違いなく増えるでしょう。

――過労死を出さないために、労働組合が政府に働きかけることも重要になってきますね。

馬淵 過労死遺族にとって、過労死や過労自殺の報道などを耳にするのは本当につらいことです。遺族は、「過労死を撲滅するための運動をいつまでしなければならないのか」と不安に思っています。「ノーモア・カローシ」です。

 過労死の遺族は、労働基準監督署に労災認定を求める場合も、裁判で会社と争う場合も、私生活を公にせざるを得ません。ある意味で、労働運動よりもつらい時です。労働運動のなかには、過労死をなくす目的の運動がありません。私が過労死遺族の方々を長年支援してきて、そこで聞いた限りでは、日本労働組合総連合会(連合)は、組織としては過労死遺族を支援していないのです。

 連合は、日本でもっとも多くの組合員がいる労組でありながら、過労死の遺族に冷たいという印象があります。「遺族らと一緒に過労死の認定闘争をしたところで労組としてメリットがない」「勝ち目のない闘争に意味を見いだすことはできない」と考えているのかもしれませんが、結局のところ、連合は政治闘争をしたくないのだと思います。そのため、政府や与党、経済界の言いなりになっているのです。それどころか、今では安倍政権の労働改革の旗振り役をしています。これでは、なし崩し的に改悪が進むおそれがあります。

 政府は、働き方改革の議論の場に全国労働組合総連合(全労連)や全国労働組合連絡協議会(全労協)なども参加させ、広く労働者の声を聞くべきです。しかし、むしろそれとは反対のことが今の政権では進んでいます。そこに、私は許せぬ思いがあります。

――ありがとうございました。

 これまでは、労働法の改正や政策を決める際、国際労働機関(ILO)の公労使三者構成の原則を踏まえ、日本でも労働政策審議会(労政審)で議論が進められてきた。その答申を経て、閣議や国会などで決めていく流れだった。

 労政審は、厚生労働大臣が任命する30名の委員で組織される。公益代表委員・労働者代表委員・使用者代表委員から、それぞれ10名選ばれる。形式上は、労働側の意見や考えが、この議論にはある程度、反映されてきた。

 だが、安倍政権のもとで進む働き方改革では、“労政審外し”をしている。働き方を変え、長時間労働を是正するといいながらも、労政審に諮問しようとはしていない。別の機関をつくり担当の大臣を置いているが、労働組合が入っていない。

 厚生労働大臣の私的諮問会議として「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」が設けられた。ここにも、労働組合は参加しておらず、経営側の有識者で構成されている。産業競争力会議や規制改革会議でも、主に経営側に立つ有識者を中心に構成され、労働組合の役員は参加していない。

 ここでとりまとめられた雇用・労働政策に関する答申や提言が法案となり、閣議決定される。安倍政権のもと、二重、三重の意味で労政審が軽く扱われている。このような一連の議論の進め方に関し、危うさを指摘する有識者やメディアは少ない。
(構成=吉田典史/ジャーナリスト)

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