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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

「村おこし」の丁寧すぎる手づくり千円ハム、バカ売れの秘密?100%国産豚肉

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

 ところが、農協は従業員確保のために工場を隣接する村に移すことを決定する。地元の村においてハムの生産は村おこしの重要な特産品となっており、雇用の場を守るという意味においても、こうした農協の判断に従うことはできず、新しく村主導で会社をつくることを決断した。

 88年、村内の7つの各地区の消費組合・商工会・森林組合・畜産組合・村が出資して、村民総参加による第三セクターハム製造販売会社、明宝特産物加工が設立された。

つまり、まったく新規に立ち上げられたのではなく、すでにある程度うまくいっていたビジネスをベースとして、市場から求められ、また村からも強く求められての設立となっている。

 ちなみに、農協サイドのほうもハムの製造(明方ハム)を継続し、現在、郡上には明宝ハムと明方ハムという2つのブランドが存在している。

利益を追求する組織体制

 明宝特産物加工の設立時、社長はもともと旅館の経営者だった村長が兼務した。一方、社長の強い意向により、専務には実業界で活躍されていた人を招くなど、行政からは1人も採用しなかった。行政出身者が加わると、金を稼ぐというよりも、予算を消化する(金を使う)という発想が先に来るなど、さまざまな甘えのようなものが生まれる可能性があり、そうしたことをすべて排除するという狙いであった。

 つまり、見た目はいわゆる第三セクターだが、企業のように成果を追い求める組織になっており、これが大きな成功要因のひとつとなっている。

 また、村の雇用を守るという重要な役割を担う明宝ハムは地元でも愛され、この地方では引き出物にハムを贈ることが慣習となっている。明宝特産物加工は、現在でも村の産業の育成、雇用の確保に大きく貢献し、過疎化への歯止めにもなっている。

 第三セクターはバブル期に数多く設立されている。80年代後半以降、政府は地域間の経済格差の是正を目指し、地域振興にかかわる第三セクターに優遇措置を講じるようになった。観光・レジャー施設も第三セクターにより数多く運営されていたが、厳しい状況に追い込まれているケースが少なくない。こうした第三セクターの設立においては、地域振興のために何かを行わなければならないという思惑が先立ち、市場ニーズなどを深く突き詰めず立ち上がっている場合が多々みられる。また、経営悪化の要因として、官・民の馴れ合い体質によるリスク配分の曖昧さ、万が一のことがあっても官が助けてくれるという甘えの構造のような点が指摘されている。

 こうした視点から捉えると、明宝特産物加工においては、すでにハム事業は軌道に乗っており、市場からのニーズ、さらには雇用創出につながるといった村からのニーズなど、非常に高い必然性のもとに設立されている。さらに、行政の人間を加えず、企業出身者を中心とする陣営により、甘えの構造を排除する組織体制が構築されていたことがわかる。つまり、一般に指摘される第三セクターにおける問題点が見事にクリアされた運営だといえるだろう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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