これが現実のものとなればEUの拡大は行き詰まり、分裂への動きが目立ち始めるだろう。エコノミスト、政治アナリストらの間ではEUの分裂、単一通貨ユーロの分裂は実際に発生する確率が低いとの見方が多いものの、各国が内向き志向を強めていることは確かだ。フランスの大統領選挙の結果は、EU加盟国間の連携が進みづらくなるなど、今後の動向に無視できない影響を与える要因になると考えられる。

先行き不透明かつ不安定な世界経済

 11月の米国大統領選挙以降、市場参加者が米国を中心に先行きに強気になってきただけに、「政治が世界経済の足を引っ張るといわれても、にわかには信じがたい」というのが大方の反応だろう。冷静に考えると、金融市場に影響を与えているのは先行き期待を強める投資家心理だ。「噂で買って事実で売る」という相場格言のように、次期大統領と米議会の交渉がうまく進まないなど政治の実態が明らかになるにつれ、強気相場の調整は進みやすい。

 そのタイミングで欧州の政治不安が高まると、それなりのマグニチュードで株価やドルが下落し、世界の金融市場がリスクオフに向かう可能性がある。すでに、イタリアのモンテ・パスキ銀行は自力での再建をあきらめ公的支援を申請した。近い将来、イタリアでも総選挙が実施される可能性があり、政治混乱が銀行システムの再建を阻害し、実体経済にマイナスの影響を与えることは十分に考えられる。

 また、リーマンショック時と異なり世界経済には十分な支えが見当たらない。中国を筆頭に新興国経済は世界経済の成長のエンジンではなく、重石になっているからだ。中国では過剰な生産能力の解消が不可避な中、鉄鋼や石炭の増産が進んでいる。金融市場ではシャドーバンキング(影の銀行:正規の銀行システムを介さない資金調達)を通した融資が増え、債務のリスクが懸念されている。秋に共産党の党大会を控え、習近平国家主席は自動車減税やインフラ投資など、財政出動により景気を支えようとするだろう。それでも、先行きの経済への懸念を受けて本土市場からは資金が流出している。16年年初のように人民元安、株安などが同時に進むと、世界経済の下振れリスクも高まるはずだ。

 注意したいのは、米国への期待剥落から世界経済の先行き懸念が高まるなかで、欧州の政治、中国経済の減速への懸念が同時に高まるシナリオだ。その場合、世界経済は未曽有の経済危機に直面する可能性がある。各国の金融・財政政策に手詰まり感が出ているなか、政策当局がどう金融市場の混乱を鎮静化させ、景気を支えられるかもはっきりしない。基調として世界経済に不安定な部分があり、状況次第で先行き不透明感が高まりやすいことは冷静に考える必要がある。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)

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