ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 日産ノート、トヨタのプリウスを凌駕  > 2ページ目
NEW
舘内端「クルマの危機と未来」

充電せず走れる日産ノート、トヨタのプリウスを凌駕…開いてしまった「パンドラの箱」

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表

アクアより優れた燃費

 一方、プリウスに代表されるトヨタのHVの大半は、シリーズ・パラレル型ハイブリッド車と呼ばれる。これは、エンジンだけでも、モーターだけでもタイヤを駆動でき、かつエンジンとモーターの両方でもタイヤを駆動する。両者のもっとも効率の良いところを使うので、これまではノートのようなシリーズ型ハイブリッド車よりも効率に優れるといわれてきた。

 しかし、日本の燃費(二酸化炭素:CO2)測定方法のJC08では、シリーズ・パラレル型のアクアのリッター37.0km(63.0gCO2/km)に対して、ノートはリッター37.2km(62.0gCO2/km)と、わずかだが優れている。もっとも、エアコン等の装備を省いて軽くしたモデルに限るが。

 ただし、ほとんどエンジン駆動で走る高速道路では、この限りではないだろう。こうした走り方が得意なのはディーゼル車だが、今後はPM2.5やNOxなどの排出ガス規制が強くなり、これまでのような良い燃費をキープするのが難しくなる。

自動車は燃費では選ばれない

 ノートが人気なのは、燃費ばかりではない。むしろ走り心地、乗り心地の良さだ。「試乗するといっぺんに気に入ってもらえる」とディーラー関係者は言うのが、まさにこの点だ。

 モーターは静かで、回転がスムーズだ。そればかりか、回転力(トルク)が強く、しかも回り始めがもっともトルクが強いので、発進が滑らかで力強い。そしてもっとも乗り手を魅了するのが、応答の良さだ。モーターはエンジンの1000倍近く短い時間でアクセルの踏み方に反応する。

 その結果、アクセルペダルにタイヤがくっついたようなダイレクト感の強い走り味となる。これがノートの最大の魅力であり、試乗した人たちの心を揺すり、購入へと気持ちを強く動かす要因だ。

 たとえば良く切れる包丁やハサミは、とても使い心地が良い。一度気に入ると、研いで何度でも使い、一生使い続ける人もいる。筆も、万年筆も、あるいはギターやバイオリンもそうだ。

 実は、自動車もそうなのである。しかし残念ながら国産車の多くは、こうした使い心地の良さを最大の魅力、価値として考えてつくられてはいない。ほとんどのユーザーはほんとうの自動車の魅力を知らない。ここをノートが突いたのである。「私は燃費で自動車は選ばないぞ」という声の聞こえるパンドラの箱を開いてしまったともいえる。そうであれば、国産車は大きく変わるだろう。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

充電せず走れる日産ノート、トヨタのプリウスを凌駕…開いてしまった「パンドラの箱」のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!