ビジネスジャーナル > 企業ニュース > トランプの計算に踊らされるマスコミ
NEW

トランプの計算づくめの発言に踊らされるマスコミ…「中抜き」加速で存在意義喪失

文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授
【この記事のキーワード】, ,
トランプの計算づくめの発言に踊らされるマスコミ…「中抜き」加速で存在意義喪失の画像1トランプ米新大統領就任式(UPI/アフロ)

 20日(日本時間:21日未明)、ドナルド・トランプ米大統領の就任演説を聞いた。「アメリカ・ファースト」だけをコンセプトにした、ものすごくわかりやすい演説だった。英語も小学生でも理解可能な平易さである。さすが、泡沫候補といわれながらもプロの「政治家」を破ってきたトランプ氏らしい。哲学的なフレーズもまったくない、「シンプルこそベスト」といわんばかりだ。

 筆者は、平易なトランプ氏の英語は日本の学生の英語教材にしてもいいのではないかと思っている。ちなみに、筆者がレギュラーで出演しているテレビ番組『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)では、タレントさんがトランプ氏の英語を聞いて「私でもわかる!」と言っていたのが印象的だった。

 もっとも、トランプ氏に反発する人も多く、デモを繰り返す人もいる。マスコミの多くも、トランプ氏に批判的である。

 米国マスコミの劣化コピーである日本のマスコミも、トランプ氏の扱いがひどい。しかも、日本のマスコミには左派が多く、インテリ層と重なっている。彼らは、平易な演説より哲学的なフレーズを好む。そうした人たちは、トランプ氏の演説を「内容がない」と批判する。

 あるテレビ番組で就任式の模様を放送していたが、番組進行役のアナウンサーが「トランプさんに核兵器の発射ボタンを持たせて、大丈夫なんでしょうか?」「台湾の総統と電話会談は、軽々しい行動ですね」と上から目線でトランプ氏をこき下ろしていた。そうした人たちの批判の矛先は、トランプ氏の「メキシコとの間に壁をつくる」「イスラムを入国させない」などの差別的な発言に向かっている。

 筆者は多少、トランプ氏の周りの人物を知っている。彼らが言うには、トランプ氏はとてもクレバー(賢明)であり、よく計算して発言しているとのことだ。あえてマスコミが飛びつきそうな言葉を選んで発しているので、決定的な嘘にはならない。

 たしかにメキシコとの間に壁をつくるといっても、国境がある以上、どこの国でも多少の壁はある。それに入国管理をきちんと行うという趣旨であれば、合法的だ。トランプ氏からみれば、マスコミが大騒ぎしてくれるほうが好都合である。

マスコミを介在しない政治手法

 そもそも、マスコミへの対応も、トランプ氏は従来の政治家とはまったく異なる。マスコミは、三権(行政・立法・司法)に次ぐ「第4の権力」といわれるくらいに重要である。というのは、大統領が国民と接するときに、メディアがその間に入るからで、国民に対して大きな影響を持つからだ。ちなみに「メディア(media)」という言葉は「間に入る」という意味だ。

 ところが、トランプ氏はツイッターなどのSNSを駆使して直接国民と接し、マスコミをできるだけ介在させないようにしている。その典型が、大統領就任前の記者会見だ。この記者会見は、マスコミに叩かれている。なんと、特定のメディアからの質問をまったく無視し、批判をしたからだ。

 これまでは記者会見こそが大統領と国民をつなげる場なので、マスコミは国民の代表と見なされていた。これが第4の権力といわれる所以だ。しかし、トランプ氏に対しては、マスコミは単にツイッターのひとつのフォロワーに過ぎない。

 マスコミはトランプ氏のツイッターを批判的に報じているが、国民は偏向したマスコミ経由でなく、今や直接トランプ氏の言葉に接することができる。これが、ますますマスコミの危機感を煽り、さらなるトランプ批判につながっている。

 なぜマスコミが偉そうにしているかといえば、国民からは政治家からの直接的な情報を持っていると期待され、また政治家からも国民への情報のパイプとして丁重に扱われてきたからだ。ところが、ツイッターの登場により、マスコミの存在意義が急速に失われている。

 一例を挙げれば、トランプ氏が大統領就任前に行った台湾総統との電話会談である。マスコミはこれをトランプ氏のツイッターで知った。マスコミはこれまで国民より前に情報を仕入れて調査することによる、国民との情報格差で存在感を発揮していた。ところが、その格差がなくなると、まったく役に立たないことがバレバレになってしまった。

 マスコミ以外でも、実は台湾総統との電話会談の一方で、かつて中国国交回復を実現させ、現在も共和党に影響力のあるキッシンジャー氏が訪中していたことを知る人は多い。トランプ氏は、思いつきで電話会談をしたのではなく、中国とも連絡パイプを持つという同時並行的な「二股外交」をしていたのだ。これこそが「ザ・政治」である。

批判ばかりのマスコミ

 トランプ氏と閣僚指名者の意見の相違について、マスコミは取り上げる。ただし、同じ共和党のなかの話なので、筆者には大した問題のようにみえない。「意見は自由」として、できるだけ党内に意見の多様性を確保し、重要な意思決定の前にガス抜きするのはしばしばみられる政治手法である。むしろトランプ政権内の意見の相違は、政権の柔軟対応に変化する可能性が高い。

 そもそもマスコミは、トランプ氏の当選確率をまったく見誤っていたのであり、そんなマスコミのトランプ評は当てにならないだろう。今でもマスコミの情報を信じる人は情報を鵜呑みにする傾向が強く、何度でも騙されると思われているのかもしれない。

 さらに、日本からいくらトランプ氏を批判しても、米大統領は変わらない。トランプ氏はわかりやすいポリシーを持っているので、それを逆手にとって、したたかに対応するほうがはるかに建設的だろう。日本のマスコミ報道をみていると、批判ばかりで建設的な意見がない、戦後のへたれサヨクの典型にみえてくる。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)

トランプの計算づくめの発言に踊らされるマスコミ…「中抜き」加速で存在意義喪失のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!