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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

異次元緩和がダメなら財政で物価目標達成できる? 注目集まる「物価水準の財政理論」の死角

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
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 ところで、すでに若干説明したが、(※4)式で等号が成立せず、(※4)式で「左辺>右辺」となるのは、どのようなケースであろうか。まず、そのようなケースのひとつとしては、(※4)式で等号が成立している場合でも、政府が恒久的な減税(あるいは歳出拡大)を実施し、(※4)式で「左辺>右辺」とする場合が考えられる。また、別のケースとしては、公債残高が累増するなか、正攻法の財政再建である増税や歳出削減が政治的に行き詰り、財政収支改善の限界が明らかになった場合などが考えられる。

 しかし、前者(恒久的な減税)のケースで、上述の前提(1)、(2)が成立せず、むしろ将来の増税を予測する場合、減税が物価の上昇をもたらすとは限らない。他方、後者(増税や歳出削減の行き詰り)のケースでは、FTPL(物価水準の財政理論)が成立し、財政インフレが突然発生する可能性もある。

財政インフレを制御できるか否かは予測不可

 なお、FTPL(物価水準の財政理論)の理論が正しい場合、一時的な高インフレが発生しても、(※4)式の等号が成立するまで物価が上昇すれば、いつか財政インフレは終息するはずである。しかし、それは理論的な話であって、現実の世界において、非常に高いインフレが発生した場合、政治的な問題に発展する可能性もあるが、そのようなかたちで発生する財政インフレについて、国民が許容する適切な水準以内に日銀や政府が本当に制御できるか否かは誰も予測できない。

 インフレを抑制するために日銀が金融引き締めを行えば、長期金利の上昇を許容する必要があるが、巨額の公債残高が存在するなか、それは利払い費の増加を通じて財政を直撃してしまう。このため、日銀は物価の制御か、財政の救済か、二者択一を迫られるが、政治の圧力等で日銀が物価の制御を断念する可能性も高い。これを「財政従属」(Fiscal Dominance)という。

 その際、FTPL(物価水準の財政理論)の理論では、増税や歳出削減によってインフレを抑制することも考えられる。例えば増税の場合、(※3)式で「実質税負担の増加→可処分所得の減少→消費の減少→インフレ圧力の低下」というメカニズムが働くためである。しかし、増税や歳出削減を行うためには、国会で歳出削減のための予算法案や増税のための税制改正法案を成立させる必要があり、そのような法案が国会で速やかに議決できるか否か、という問題にも直面する。

 このため、あらかじめ増税の条件をルール化しておき、たとえばインフレ率が2%を超えたら、消費税率を1%引き上げるという提案なども存在するが、現実の世界では、原油価格の高騰や急激な円安、民間銀行による信用創造や海外マネーの流出入等、FTPL(物価水準の財政理論)が想定する以外のさまざまな複合的要因や外生的ショックで物価が上昇することも考えられ、単純なルールでの拘束は難しい可能性があるとともに、ルールに従って1%の消費増税を実行してもインフレが終息しない場合も考えられる。

 また、財政インフレで一時的な高インフレが発生している場合には、もっと踏み込んだ増税や歳出削減が必要になる可能性もある。かつての日本経済でも1945年の戦後直後から数年間、高インフレが発生したが、そのインフレを終息させたのは、超財政金融引き締め政策を盛り込んだドッジラインであった(注:朝鮮特需という神風が吹いたが、それがなかった場合、引締め政策はその後深刻な景気後退をもたらした可能性が高い)。

 この関係で、現スタンフォート大学(元シカゴ大学)のジョン・コクラン教授は最近の論文(2014年)において、「歴史的にみると、インフレは貨幣的現象と言うよりも財政的現象である」という主張をしており、財政インフレを止めるには、その原因である財政赤字を縮小するため、国民が痛みを伴う増税や歳出削減を実行する必要がある可能性が高い。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)

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