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アパホテルに、南京大虐殺否定本の「間違った内容」を問い合わせたら回答拒否された

文=深笛義也/ライター
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アパホテルに、南京大虐殺否定本の「間違った内容」を問い合わせたら回答拒否されたの画像1アパホテル(撮影=編集部)

 大手ホテルチェーン、アパホテルをめぐるインターネット上の炎上が、いまだに続いている。

 アパホテルなどを統括するアパグループの元谷外志雄代表が、藤誠志の名で出した著作『理論 近現代史学2【正式表記はローマ字】 本当の日本の歴史』がアパホテル客室に置かれており、そこに南京大虐殺を否定する内容が書かれていると15日、中国のSNS「微博」に投稿された。これがきっかけとなり、アパホテルは批判にさらされ、一時期、アパホテルのサイトはアクセスが殺到したためか、つながらない状態が続いた。

 アパホテルは、「異なる立場の方から批判されたことを以って、書籍を客室から撤去することは考えておりません。日本には言論の自由が保証されており、一方的な圧力によって主張を撤回するようなことは許されてはならないと考えます」と、今後も書籍を客室に置くことを表明した。これに対して24日、中国の国家旅遊局は、国内の旅行業者や宿泊予約サイトに対し、アパホテルの利用中止、広告の撤去を要求したことを明らかにした。

 また、アパホテルがHPに掲載した見解には「末尾に本書籍P6に記載しています、南京大虐殺に関する見解を掲載いたしますので、事実に基づいて本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています」との記述もある。

 そこで筆者は1月20日、誤りであるのではないかと思える部分について指摘し、回答を求める文書を、元谷代表宛てに送付した。

 すると1月24日、アパグループの代表室秘書課より、以下のような返答が来た。

「この度は、『理論 近現代史学2』の記載内容の件でお手紙をいただきましてありがとうございました。せっかくのご連絡でございましたが現時点での回答は控えさせていただきます。理由といたしましては、今回の報道を受けまして多数の取材や一般のお客さまからのお問合せが入っております。また、『南京大虐殺』についての『事実に基づく本書籍記載内容の誤りのご指摘』としてお電話いただきお送りいただくようお願い申し上げたつもりでございましたがいただきました内容は、ご質問は書籍全般についてのご質問であったためです」

4つの質問

 南京大虐殺については、自ら手を下した日本兵の証言もある。『理論 近現代史学2』には、「上海大学の朱学勤教授が『いわゆる南京大虐殺の被害者名簿というものは、ただの一人分も存在していない』と論文で発表したにもかかわらず、辞職もさせられていないことなどから、いわゆる南京虐殺事件が中国側のでっちあげであり、存在しなかったことは明らかである」という記述もある。これは、そもそも朱学勤教授の発言の意図を歪曲しており、南京大虐殺紀念館の「嘆きの壁」に、犠牲者の名前が刻まれているのは事実である。

 南京大虐殺そのものについては、多くの方々が誤りを指摘するだろう。そこで筆者は、『理論 近現代史学2』の「先端科学技術兵器の開発力が日本を守る」の章にある、以下の記述を取り上げた。

「歴史を振り返ってみても、戦いでは兵器の数よりも質によって勝者が決まっている。先の大戦時に登場した核兵器は、戦後のアメリカ覇権の力の源だった。もしアメリカに核兵器がなかったら、ソ連が世界中を赤化してしまっていたはずだ。逆にアメリカだけが核を保有していたならば、どこかで広島、長崎に続く三発目の核兵器が使用されていたかもしれない。アメリカの核科学者たちはそう考え、核開発の情報をソ連にリークした。その結果、僅か四年でソ連は核開発に成功、核は使われることのない兵器となり、現在に至っている」

 ここで言われているのは、核抑止論と受け取っていいだろう。現在では、米ソに加えて中国、イギリス、フランスなどが核を保有しているために、政治的な対立が生じても相手の核を恐れて戦争にはなりにくいという現状があるのは確かだ。

 だが上記の文章では、その現状をアメリカの核科学者たちが意図的につくり出したかのように書かれている。それは事実に反しているのではないか。そして、ここでは赤化(共産主義化)も核によって防げるという、核万能論ともいうべきものが語られている。

 そこで筆者が元谷氏へ投げかけたのは、以下4点の質問であった。

(1)アメリカ政府関係者やアメリカ陸軍関係者、ハリウッドの俳優、映画監督、作家をはじめとして「共産主義者」と指弾される者が多く現れ、1940年代後半から1950年代前半にマッカーシズムと呼ばれる「赤狩り」が行われたことが知られています。これに核兵器が関連しているのでしょうか? 「もしアメリカに核兵器がなかったら、ソ連が世界中を赤化してしまっていたはずだ」というのは、どのような資料から理論的に導き出されたのでしょうか?

(2)歴史的資料から、マンハッタン計画に参加していたドイツ人の理論物理学者、クラウス・エミール・ユリウス・フックスが、原爆に関する機密情報をソ連の諜報員に渡したということが知られています。「逆にアメリカだけが核を保有していたならば、どこかで広島、長崎に続く三発目の核兵器が使用されていたかもしれない。アメリカの核科学者たちはそう考え、核開発の情報をソ連にリークした」というのは、どのような資料から理論的に導き出されたのでしょうか?

(3)1954年3月1日、アメリカ軍はビキニ環礁で水素爆弾を実験に用い、わが国の第五福竜丸が大量の放射性物質を浴び、船員が亡くなりました。その後も、実験に核兵器が用いられたことは数え切れないほどあり、現在まで続いております。「僅か四年でソ連は核開発に成功、核は使われることのない兵器となり、現在に至っている」というのは、どのような資料から理論的に導き出されたのでしょうか?

(4)ウラン鉱石を精製した後の純粋ウランから、ウラン濃縮を行い核燃料としての低濃縮ウラン燃料が得た後に残る残渣からつくられる、劣化ウラン弾は核兵器の一種と見なされています。劣化ウラン弾は、ボスニア、コソボ、イラクで使用され、それらの国の市民に被害が出ただけでなく、アメリカの兵士にも被曝によるものと思われる被害が出ています。「僅か四年でソ連は核開発に成功、核は使われることのない兵器となり、現在に至っている」というのは、どのような資料から理論的に導き出されたのでしょうか?

 以上は、広く事実として認められていることだ。これに答えられないという。そして、これは南京大虐殺とは関係がないという。

南京大虐殺と原爆

 いみじくも、『理論 近現代史学2』には次のような記述がある。

「日本は西洋列強が侵略して植民地化していたアジアの植民地軍と戦い、宗主国を追い払った植民地解放の戦いを行ったのに、東京裁判では、反対に日本が侵略国家であり、中国国民党政府軍が謀略戦としてつくった捏造の歴史によって、南京大虐殺を引き起こした悪い国だと決めつけられた。アメリカはその悪い国『日本』に原爆を投下して良い民主主義国家に変えたというストーリーを作ったのだ」

 日本の侵略性を全否定しているのは問題だが、ここで自ら、南京大虐殺と原爆が関係があると語っている。

 極東国際軍事裁判(東京裁判)で、南京大虐殺の犠牲者は30万人とされた。原爆による広島での犠牲者は、推定で約14万人。長崎での犠牲者は推定で約7万4000人。30万人という数字は、これに見合うものとしてつくられたのではないかと、何人もの研究者が指摘している。

 南京大虐殺があったとする日本の研究者でも、30万人という数字を肯定する者は現在ではいない。犠牲者については、数千人から数十万人と諸説あるが、いずれも「大虐殺」と表現しうる数だ。

 アメリカによる原爆投下を正当化するために30万人という数字がつくられたことを、批判する立場はあっていいだろう。しかし『理論 近現代史学2』では、一方で手放しの核礼賛を行っているのだ。

『理論 近現代史学2』を歴史修正本と呼ぶ者もいるが、一貫したポリシーがなく、そこかしこで聞きかじったことを書き連ねた、トンデモ本でしかない。元谷氏を右翼と呼ぶ人もいるが、ナンチャッテ愛国者でしかないのではないか。

 元谷芙美子アパホテル社長の著書『私が社長です。』には、「自分の家にいるような気楽な感じで、お客様に泊まっていただきたい」とある。どうして、自分の家に、こんなトンデモ本を置かれなければならないのだろうか。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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