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前川修満「会計士に隠しごとはできない」

サントリー、あえて毎年大きく利益を目減りさせる長期戦略重視の経営…のれんの難点

文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

 一方、三洋の買収はパナソニックの業績に寄与せずに、業績不振が続きました。そのため、5000億円ののれんのうち、2012年3月期に1600億円が、13年3月期において2500億円が、それぞれ損失として処理されました。

 繰り返しになりますが、IFRSでは償却処理は行われません。パナソニックの例のように、多額の投資が不首尾だと評価された時点においてのみ、損失処理が行われます。

 これに対して、日本基準では投資の成否にかかわらず、のれんを20年間にわたって償却しないといけません。これに加えて多額の投資が不首尾であったと評価された時点においても損失処理が行われます。ですから、日本基準に準拠している会計を行う企業では、のれんの償却費の分だけ、毎期の利益が小さく表示されることになります。

なぜ日本の会計基準では、20年以内の償却が行われるのか

 
 ここで若干学術的な話をしたいと思います。

 のれんについては、これを償却しないという「非償却説」と償却すべきであるという「償却説」の2つがあります。非償却説によれば、M&Aによって資産計上されるのれんは、他社を買収することによって獲得された超過収益力が金額的に評価されたものであって、これは規則的に減価するという性格を持たないとしています。また、資産価値の毀損の事実があった場合に減損処理を行うことで、資産の過大計上を回避できるとしています。IFRSと米国基準は、この考えに従っています。

 これに対して償却説は異を唱えます。すなわち、のれんの実態が超過収益力であるとすると、超過収益力は永続的ではないので償却すべきであると主張します。もし企業の収益力が買収後も維持されているのであれば、それは超過収益力が永続しているのではなく、日々の営業活動を通じて新たにのれんが自己創設されていることで収益力を維持していると考えられ、有償取得したのれんは時の経過とともに減価して自己創設ののれんと入れ替わっているのであり、有償で取得した過去ののれんの価値は失われているとされます。日本基準は、この考えに従っています。

 どちらの主張が正しいかはさておき、のれんの処理方法は、IFRSや米国基準と日本基準では、大きく異なるのです。

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

1960年石川県金沢市生まれ。同志社大学商学部卒業。公認会計士・税理士・日本証券アナリスト協会検定会員。澁谷工業株式会社、KPMG港監査法人(現・あずさ監査法人)を経て、1992年に公認会計士・前川修満事務所を開業。2006年にはアスト税理士法人を設立し、代表社員に就任。これまで、数多くの経営者や会社員に、セミナーや書籍を通じて決算書の読み方を解説してきた。決算書を通して企業の「裏の顔」を見つけ出す方法とその面白さを知ってもらいたい、との思いから2015年に『会計士は見た!』(文藝春秋)を執筆。『やっぱり会計士は見た!―本当に優良な会社を見抜く方法』は、決算書から「裏の顔」を見出す手法をいかし、優良な会社をいかに見抜くか、さらにそこから日本企業が今後何をすべきか、という視点で著した。

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