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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

無責任で間違ったカロリー制限&栄養制限ダイエット法が寿命を縮める!

文=熊谷修/人間総合科学大学教授

 もしこのときにたんぱく質とビタミンの摂取を同時に減らした場合、骨格筋も落ち基礎代謝が低下するため、糖質の摂取適正化による減量効果は大きく損なわれてしまうので要注意である。今流行の糖質制限食は、20~30代の肥満の改善には合理的だ。

 ところが筋肉骨格系に老化が明瞭にあらわれる40歳以降では、話は大きく変わってくる。一般的に40歳から70歳までの30年間に、食事量は概ね25%減る。そして30歳から70歳までの40年間に、骨格筋は10年ごとに約5%ずつ減少してゆく。人生後半、食事量が減るのにもかかわらず、体はふっくら太って肥満体型になってしまう。この体型の変化は、老化に伴う筋肉の減少による基礎代謝の低下によって起きる。

 シニア世代では、カロリー摂取の過剰による肥満は稀である。老化による筋肉骨格系の衰えが原因の軽度肥満のシニアにカロリー制限を課すと、老化を加速させてしまう。この機序背景を知らずダイエットを勧奨する無責任情報があまりにも多い。40代から食品摂取の多様性を確立し、家事作業と週2日程度の1時間の運動習慣が最も安全である。食品摂取の多様性は、10食品群チェックシート(この名称で検索すればインターネットで入手可能)が有効である。

国や地域ごとの事情を考慮すべき

 先ごろ、アカゲザルのカロリー制限に関する2つの研究成果が話題を呼んだ(Nature communications,論文番号14063.1/17.2017)。生涯自由食のグループと中年から30%カロリー制限のグループを設定し、30年近く比較追跡したところ、30%カロリー制限グループが長命で生活習慣病リスクが低かったとの成果である。当初、米ウイスコンシン大学(効果あり)と米国国立老化研究所(効果なし)の研究結果が異なっていたが、再解析の結果、見解が一致したという。

 簡単にまとめると、人間の成長期に当たる早期からのカロリー制限には、健康効果はみられないが、20~30代からのカロリー制限に絞り込み解析すると、健康効果ありとなるようだ。しかし、老化の抑制効果を確認しているわけではない。この研究成果をもとに「カロリー制限はどの年齢でも健康効果あり」とメディアは書き立てる。

 そもそもこの実験のカロリー30%制限グループは、人間の規則正しい食生活に近似したカロリー適正摂取グループと理解するのが正しい。人間にとって、社会生活は食事に制限を加えるリズムを有している。ウイスコンシン大の実験では、自由食グループの体重はカロリー制限グループより40%程度多い。いかに自由食グループがカロリー摂取過多かがわかる。この論文の正しい理解はこうだろう。

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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