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江川紹子の「事件ウオッチ」第73回

江川紹子が見る「清水富美加・出家騒動」――メディアは芸能界の労働事情とは切り離した報道を

文=江川紹子/ジャーナリスト

 著名人であり、教祖が「気になって仕方がない」という信者であるとなれば、教団側としてはことのほか大切に、寄り添うようにして対応したはずである。

 そんな中で彼女の思いは、急速に行き詰まってしまったのではないか。

 報道によれば、清水さんの側から所属事務所に離脱の意志が伝えられたのは、1月28日。マネジャーに対して、清水さんは女優としての活動より「もっとやりたいことができた」という趣旨の発言をしたという。さらに2月1日に教団側の代理人弁護士から「契約を2月20日で終わらせたい」などとする内容証明が、事務所に届いた。

 「やりたいこと」を求めるのは、本人の自由だ。職業の選択の自由は保障されている。しかしまた、世の中の営みの多くは、契約で成り立っているわけで、それが簡単に反故にされては、社会が成り立たない。

 彼女の場合、契約の満了期間は5月20日というから、あと3カ月、約束していた仕事をこなし、できるだけきれいに後始末をする努力をしていれば、迷惑を被る人は最小限に抑えられただろうし、損害の金額も抑えられただろう。それを待てない、というのは、いかにも性急、唐突で、身勝手な印象を受ける。

 これについて、教団側は記者会見で次のような説明をして、清水さんと教団の対応に理解を求めた。

「宗教には大きな善、小さな善という考え方がある。期待や責任を放棄することは一見悪いことに思えるが、一日も早く一人でも多くの方が救われる大きな善を取る」

 自分たちがやっていることは「大きな善」であり、偉大な救済活動であって、その大いなる価値のためには、世俗の人々が行う「小さな善」などは犠牲にしても構わない、ということである。犠牲を強いられる人たちは、教団の価値観を押し付けられるに等しい。それを受け入れるべきだ、というのである。

 信者たちが教団の価値観を絶対的な善、正義、真理であると信じるのは、まさに信仰の自由として認められるべきだが、教団外の一般の人たちにも、その価値を強いる独善性に、カルト性を感じてならない。

「大きな善」実現のための異常行動

 幸福の科学は、オウム真理教や統一教会ほどの社会との対決はしてこなかったし、かつては「偉大なる常識人」をキャッチフレーズにもしていた。だが、いったん火がつくと、「常識」では考えられない極端な行動に突っ走ることは、これまでもあった。

 たとえば、講談社の出版物で教団や教祖が誹謗中傷されたとして抗議を行った際には、同社に大量の嫌がらせ電話を入れ、FAX送信を行った。送り付けたFAX文書の総量は約55,000通、重量約240㎏に及び、同社は業務ができなくなった。また、同社周辺での抗議行動も、多数の信者が押しかけてシュプレヒコールを行い、警備員の制止を振り切って、社屋に侵入し、同社幹部との面会を強要するなど、激しいものだった。

 私も新聞記者時代に、統一教会の霊感商法に関する記事を書いたところ、朝から晩まで、信者の電話攻撃にさらされ、会社の通信機能がマヒさせられたことがあり、その記憶と重なった。

 講談社の出版物については、後に裁判所で名誉毀損を認定されたものもあり、教団が抗議や法的措置を行うのは分かるとしても、その激しさは常軌を逸していた。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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