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林晋哉「目からウロコの歯の話」

歯列矯正やマウスピース矯正で「噛み合わせ」がメチャクチャ…物が噛めなくなる事例多発

文=林晋哉/歯科医師

 筆者のクリニックに、成人矯正後の不具合を訴える初診の患者さんが来ました。主訴は、「奥歯が当たらず物が噛めない。顎をどこにやったらいいかわからない」といった症状です。

 歯列矯正という歯科治療を受けた結果として、物が噛めなくなったのです。口の健康に寄与するための歯科医療としては、決してあってはならない出来事です。

 もし、自分の口が、噛んでも奥歯が当たらない噛み合わせだったとしたら、と想像してみると、恐ろしいかぎりです。

歯並びと噛み合わせ

 多くの人は、「歯並び」と「噛み合わせ」を混同して捉えているようです。つまり、「歯並びが良ければ、噛み合わせも良い」と思われているようですが、歯並びと噛み合わせはまったく別のものです。歯並びは「歯の並び具合」、噛み合わせは「上下の歯の接触の状態」です。したがって、上の歯の1本が引っ込んでいたら、噛み合う相手の下の歯も引っ込んでいてしっかり噛み合っており、顎を動かしたときに引っ掛かるなどの邪魔になっていなければ、噛み合わせ的には問題ありません。ただ歯並びが悪いだけです。

 このように、歯並びの悪さが機能障害の要因にならないケースでは、歯列矯正をはじめとするすべての歯科治療は必要ありません。

 しかし、見た目がどうしても気になるということで歯科的なアプローチをするのであれば、それは美容目的の施術となります。

 歯科大学で教わる歯科矯正学を簡単にまとめると、歯科矯正とは「不正咬合を正して、顎・口腔機能と審美性の向上を求めること」です。つまり、「歯を移動させる矯正という手段によって咬合(噛み合わせ)を改善し、口の働きと見た目を向上させること」と言い換えることができるでしょう。

 では、歯並びと噛み合わせは、矯正によって同時に手に入れられるものなのでしょうか。

 筆者の見解としては、両方を確実に得ることは無理だと思います。もし、それができるのであれば、成人矯正後に不具合を訴える人はいないでしょう。

 医療の本質を考えれば、優先されるべきは見た目ではなく機能です。なぜならば、機能や健康を損なってまで得なければならないものはないからです。

林晋哉/歯科医師

林晋哉/歯科医師

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」: -あなたもいつか歯を失う』(パブフル)など多数。

林歯科・歯科医療研究センター

『歯科医は今日も、やりたい放題』 歯列矯正、インプラント、虫歯治療、歯石取り…患者のための“本当の治療”ってなんだ?歯科にかかる前に知っておきたい大事な話 amazon_associate_logo.jpg

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