サントリーが1989年に発売した「モルツ スーパープレミアム」(現「ザ・プレミアム・モルツ」)は発売当初こそ注目されなかったが、少しずつ人気を集め、2000年代後半には「プレミアムビール」という新しいジャンルを確立させるまでに至った。

 日本酒やワイン、ウイスキーとは異なり、ビール業界では定期的にヒット商品が誕生している。

 アサヒは、1987年に「アサヒスーパードライ」を発売。空前のメガヒットとなったスーパードライは、瞬く間にキリンのシェアを奪った。アサヒは「ドライビール」というジャンルを確立させ、さらにキリンから業界首位の座を奪取している。

 サントリーとアサヒがヒット商品を世に送り出して奮闘するなか、戦後長らくビール業界を牽引した王者・キリンはパッとしない。キリンは76年に業界シェア63.8%を叩き出し、国内に敵なし状態だった。我が世の春を謳歌していたキリンだったが、一人勝ちによって思わぬ副作用も生まれた。

 これ以上シェアを伸ばしてしまうと、独占禁止法に抵触してしまう事態に陥ったのだ。独禁法に抵触してしまえば、キリンは会社を分割せざるを得なくなる。

 そうした事情から、当時のキリンの営業マンは「売る」ことよりも「調整」することに努めた。「キリンは勝ちながら弱くなっていったのです」と、永井氏はキリン弱体化の理由を勝ち過ぎていた時代に求める。

 アサヒの後塵を拝し、首位を奪還できないままのキリン。それでも、発泡酒「麒麟淡麗<生>」(現「淡麗極上<生>」)や第3のビール「のどごし<生>」といったヒット商品を生み出した。また、微量にアルコールが含まれている従来の商品と違い、アルコール分0.00%をうたった「キリンフリー」は、ノンアルコール飲料の革命的商品として業界でも話題になった。それでも、キリンはビール業界の王者の座に返り咲くことはできない。

「淡麗<生>」「氷結」の生みの親の無謀な挑戦

『究極にうまいクラフトビールをつくる』の主人公であるキリンの和田徹氏、田山智広氏、吉野桜子氏の3人は、同書で「異端児」と形容されている。彼らは、王者・キリンの復活を考えていたわけではない。単純に「うまいビールをつくりたい」という熱い思いから、ビール文化の復権、いわばビール業界全体について考えていたのだ。

 しかし、世間的には「ビールは、もはや時代から取り残された飲料」「オヤジが飲む酒」といったイメージが定着しつつあり、社内的にも3人の理想や意図は簡単に理解されない。

『究極にうまいクラフトビールをつくる キリンビール「異端児」たちの挑戦』 1杯のビールには、ビジネスのすべてが詰まっている 開店以来連日超満員が続くクラフトビールの聖地 代官山「スプリングバレーブルワリー」ができるまで amazon_associate_logo.jpg
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