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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

【一人の男の熱意】過疎地で病院や介護施設を次々つくる男が、日本の医療を変え始めた

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特養をつくる


 放射線対策と並ぶ佐川氏の関心は介護だった。平田村が属する石川郡の人口は約4万人、近隣の小野町、田村市、川内村を加えると人口は約10万人だ。

 ところが、この地域の介護施設は不足している。介護施設がなければ、高齢者は、この地域で安心して生活できない。「阿武隈山地の医療と福祉を守ろう」を合い言葉に、介護施設を自ら立ち上げ始めた。

 14年8月には小野町市内に「地域密着型の特別養護老人ホームさくら」(定員29人)、15年11月には川内村に「特別養護老人ホームかわうち」(定員80人)を立ち上げた。川内村の特養はマスコミでも大きく取り上げられたため、ご存じの方も多いだろう。

 この特養の開設は、川内村の復興に大きく貢献した。常に満床で、約60人が入所待ちだ。震災後、一時的に避難したが、特養の開設を待って帰村した人も少なくない。施設長を務める林光浩氏は「入居者の約半数が川内村の村民で、残りは近隣の高齢者です」という。

 従業員も同様だ。この施設では36人が働いているが、このうち17人は川内村出身者で、残りは近隣の市町村から通勤している。「特別養護老人ホームかわうち」が開設されたことで、地域の雇用を確保したことになる。

 近年、社会福祉法人の不祥事が続き、そのあり方が問われている。専門的なノウハウを持たない集団が経済的な利益を目的に介護業界に進出するケースも珍しくない。この点で病院から介護業界に進出したひらた中央病院グループは信頼できる。「特別養護老人ホームかわうち」の介護職員は「入居者が病気になったときに、すぐにお医者さんに連絡できて、入院もさせてもらえるのがありがたい」という。

 ひらた中央病院グループの次のチャレンジが、田村市内に特養を立ち上げることだ。震災後、廃校となった小学校跡地に場所も決まり、来年9月に開設予定だ。入居者は100名で、すでに300人以上が待機しているという。人口約3万8000人の田村市の特養は4カ所で定員は280人。ひらた中央病院グループの参入で介護体制は大幅に強化されることになる。

 施設長に就任予定の佐久間裕氏は「故郷の田村市のお役に立てるのは幸せです。建物の設計の打ち合わせ、業者選定、人材確保・教育などやることはたくさんありますが、今ほどやりがいを感じる時はありません」という。やがて、彼を中心にスタッフが各地から集まるだろう。そして、高齢者に安心を提供するとともに、地元に雇用を提供する。

 介護難民対策を声高に訴え、政府を批判するのもいい。ただ、そんなことをしても効果は期待できない。まず、自ら動くべきだ。動けば仲間ができる。そして大きな流れとなる。阿武隈高地の山奥から、日本の医療・介護が変わるかもしれない。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)

●上昌広(かみまさひろ)
1993年東大医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。 虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の診療・研究に従事。
2005年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(後に先端 医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年3月退職。4月より現職。星槎大学共生科学部客員教授、周産期医療の崩壊をくい止める会事務局長、現場からの医療改革推進協議会事務局長を務める。

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