
作家やジャーナリストをはじめとする著作権者を置き去りにしたまま、著作権法が改正されようとしている。しかもその改正内容は、著作権者に対して一方的に犠牲を強いるものだ。早ければ今の通常国会に同法改正案が提出される。
文化庁は、著作権者の許諾を得なくても書籍の全文をデジタルスキャンしてテキストデータ化し、インターネットで検索できるよう、著作権法を改正する方針を固めた。現在、こうした「全文スキャン」が許されているのは国立国会図書館のみだが、今後は民間業者であっても許可する考えなのだという。
そう聞いて、10年ほど前に起きたある事件のことを思い出した。日本をはじめ、世界中の著作権者が巻き込まれた「グーグルブック検索和解」事件のことである。
筆者も被害者となった「グーグルブック検索和解」事件
本の目次からあとがきまで一冊丸ごとデジタルスキャンすることで、ユーザーの興味にあった本をインターネット検索で見つけ出すことができるサービス――。これが、すでにネット上で稼働中の米グーグルの「ブック検索」(現在は「グーグルブックス」と改称)だ。
私たちエンドユーザーは、その検索結果を見て、販売している書店や、どこの図書館が所蔵しているのかを無料で知ることができる。立ち読み感覚で一部を「試し読み」できる本もある。グーグルは2010年の段階で、英語ばかりか日本語、ドイツ語、フランス語まで含む多種多様な言語の書籍を1000万冊以上、デジタルスキャンしていた。一般のユーザーばかりか、大学の研究者や専門家にとっても大変便利な検索ツールだということもできそうだ。
が、あろうことかグーグルは、著者や出版社の許可を一切得ないまま、勝手に本のデジタルスキャンを繰り返し、その一部をネット上に無断で公開していたのだった。
さらにグーグルは、この行為を咎める裁判が米国で起こされたのを逆手に取り、わずかな解決金を支払うことで本のスキャンデータをネットで販売しても構わないとする「和解案」を、世界中にいる本の著者たちに一方的に突きつけてきた。これを「グーグルブック検索和解」事件という。
和解案とは、グーグルの海賊版行為を強引に正当化するため、米国の裁判所が法的なお墨付きを与えるアリバイであり、事実上、インターネットへの「著作権の開放」を迫るものでもあった。大砲をぶちかましながら幕末の日本に開国を迫った「黒船襲来」を彷彿とさせる話だ。