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白井美由里「消費者行動のインサイト」

スーパーやネット通販等の数量限定・期間限定、劇的な売上増効果…なぜ買ってしまう?

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 また、ワンシンクらは購入数量の上限の影響を分析しています【註6】。スーパーでキャンベル缶スープに12%の値引きを実施したときに、限定なし、上限4個、上限12個の3つの状況を設定し、それぞれの購入数量を比較しました。その結果、購入数量は、数量限定をつけたほうが多くなること、および購入数量の上限が高いほうが多くなることが明らかにされています。

 限定には購入可能期間の限定もあります。スリらはメキシコへのパック旅行を対象とした実験を行い、「夏の間、一度だけ実施(強い限定)」、あるいは「夏の間、毎週末実施中(弱い限定)」のいずれかのキャッチコピーを付けたときの商品評価を分析し、商品評価は限定が強いほうが高くなることを明らかにしています【註7】。

 限定の効果は、消費者が、「限定しなければならないほどお得な買い物」であり、「後では買えないかもしれない」と感じ、選択の自由が失われる可能性に対する心理的抵抗感が喚起されることによって生じます。限定は、値引きしていない商品にも有効ですが、値引きと違って限定する理由を推測しにくいので、実施する場合には消費者にとって納得のいく理由を示した方が効果は高くなると思います。

ブーメラン効果

 リアクタンス理論は、「ブーメラン効果」と呼ばれる現象も説明します【註4】。セールスマンのしつこい商品推奨に「買いたくない」と感じたことはないでしょうか。選択を強制されているように感じると、選択の自由が奪われるような心理的抵抗感が生じ、買う気が失せるのです。つまり、「買ったほうがいい」という推奨とは逆の行動である「買わない」という反応が生じるのです。押し付けがましい推奨はこうしたブーメラン効果を発生させます。ブーメラン効果は、売り手に商品を買わせたいという意図があると消費者が感じたときにも生じます。良い点ばかりを強調しすぎる広告は要注意です。前述した購入の限定についても、消費者に疑念があると、ブーメラン効果が発生する可能性があります。

心理的抵抗感に注意

 以上見てきたように、心理的抵抗感は消費者の選択に重要な影響を与えます。消費者は企業の売り方やコミュニケーションの取り方によって、簡単に心理的抵抗感を抱きます。企業は自社のやり方に酸っぱい葡萄の効果やブーメラン効果が生じる可能性があるかどうか、検討してみるといいかもしれません。

 インターネットでの買い物が増えるなか、顧客に商品推奨やセールの案内をメールなどで頻繁に知らせる企業が結構あります。適度なタイミングで発信される情報ならば価値を感じても、多すぎるコンタクトは心理的抵抗感を喚起し、逆に関心を失わせる可能性があるので注意が必要です。情報過多の時代なので過度な情報発信には気をつけたほうがいいでしょう。

 また、購入したばかりの顧客に類似品の商品推奨をするのも注意が必要です。「自分のことをわかってない」「そんなに次々と売りたいのか」といったネガティブな感情と心理的抵抗感を抱かせてしまう可能性があります。

 さらに、品揃えにも注意が必要です。消費者が複数の商品の中から選びたいと思っている製品カテゴリーにおいて少ない品揃えを提供すると、選択を強制されているように感じさせてしまい、心理的抵抗感から購入の変更や中止をする消費者が出てくる可能性があります。売れ残りや廃棄ロスを減らすためにも商品の絞り込みは必要不可欠ですが、製品カテゴリーによっては選択の余地が消費者にとって重要な購買意思決定の要素になることがあるので、注意が必要です。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

・参考文献
【註1】Brehm, J. W., L. K. Stires, J. Sensenig, and J. Shaban (1966), Journal of Experimental Psychology, 2 (3), pp. 301-313.
【註2】Brehm, J. W. (1966), A Theory of Psychological Reactance, New York: Academic Press.
【註3】Mazis, M. B. (1975), “Antipollution Measures and Psychological Reactance Theory: A Field Experiment,” Journal of Personality and Social Psychology, 31 (4), pp. 654-660.
【註4】Clee, M. A. and R. A. Wicklund (1980), “Consumer Behavior and Psychological Reactance,” Journal of Consumer Research, 6 (March), pp. 389-405.
【註5】Inman, J. Jeffrey, Anil C. Peter, and Priya Raghubir (1997), “Framing the Deal: The Role of Restrictions in Accentuating Deal Value,” Journal of Consumer Research, 24 (June), pp. 68-79.
【註6】Wansink, Brian, Robert J. Kent, and Stephen J. Hock (1998), “An Anchoring and Adjustment Model of Purchase Quantity Decisions,” Journal of Marketing Research, 35 (February), pp. 71-81.
【註7】Suri, Rajneesh, Chiranjeev Kohli and Kent B. Monroe (2007), “The Effects of Perceived Scarcity on Consumers’ Processing of Price Information,” Journal of the Academy of Marketing Science, 35 (1), pp. 89-100.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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