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ヤマト、「アマゾン貧困」で利益なき繁忙…ドライバーの過酷労働を犠牲にアマゾン急成長

文=編集部
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ヤマト、「アマゾン貧困」で利益なき繁忙…ドライバーの過酷労働を犠牲にアマゾン急成長の画像1ヤマト運輸・サービスセンター(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 宅配便業界最大手のヤマト運輸が宅配便の運送料金の値上げに踏み切ることで、佐川急便と日本郵便も追随する。インターネット通信販売の取り扱いが急増しているうえに、人手不足で人件費が上昇。採算が厳しくなっている。ネット通販業者は送料無料の現行のサービスを見直す可能性が高い。

 宅配便の運賃はヤマト運輸が、消費税分の上乗せなどを除くと27年ぶりに基本運賃を改定。すべての顧客に値上げを求める方針だ。佐川急便と日本郵便は、基本運賃を変えずに採算が悪い一部の法人契約だけ値上げを要請する。

 国土交通省の調べによると、2015年度の国内の宅配便市場はヤマト運輸が46.7%で首位。佐川急便が32.3%、日本郵便が13.8%で続き、3社合計のシェアは92.8%に達する。

 大手宅配便会社が相次いで宅配料金の値上げを検討するのは、ネット通販の拡大による荷物の取扱量増大と人手不足、人件費の増加に耐えかねたからだ。

 16年(暦年)の宅配便の取扱個数は38.7億個で、1996年の14.3億個から20年間に2.7倍に急増した。スマートフォン(スマホ)の普及を追い風に、ネット通販が流通の業界地図を塗り替える勢いで成長を続けている。それに歩調を合わせて宅配便の個数は増えてきた。

 個数の増加は、良いことばかりではない。荷物が増えるほど人件費が膨らむ「利益なき繁忙」に宅配各社は苦しむこととなった。

 再配達システムが元凶という見方もある。現在、再配達は無料だ。国土交通省の調べでは、再配達の割合は全体の20%を占める。宅配トラックの走行距離のうち4分の1は再配達だ。午前中、昼、夜と3回訪ね、そのうち2回は不在ということもある。ドライバーは毎日21時までの業務が常態化して、長時間労働の温床となっている。

 ヤマトホールディングス(HD)が置かれている状況は厳しい。17年3月期、子会社のヤマト運輸の国内宅急便個数は18.7億個、宅急便単価が556円と予想している。13年3月期の実績は個数が14.9億個、単価は591円だった。4年間で個数は26%増え、単価は6%下落した。

 その結果、ヤマトHDの17年3月期の営業収益は1兆4600億円と前期比3%の増収になるが、営業利益は580億円と同15%の減益になる見通しだ。

 ヤマト運輸は昨年、神奈川県内の事業所で残業代の未払いがあったとして、労働基準監督署からの是正勧告を受けた。ヤマトHDは、ヤマト運輸などグループ全社員7万6000人を対象に未払い残業代を支給するための調査に乗り出し、4月末までに調査を終える予定。支払い代金の規模は数百億円に上る可能性があると指摘されており、業績への影響は小さくない。

アマゾンの宅配はヤマトに集中

 一方、ネット通販最大手のアマゾンジャパンは急成長を遂げた。米アマゾンの16年12月期決算によると、日本における売上高は31%増の107.9億ドル(約1兆2000億円)。14年の79.1億ドル、15年の82.6億ドルから大きく伸び、日本円で1兆円の大台を突破した。

 アマゾンが消費者に支持されたのは、無料配送や即日配送を実施しているからだ。つまり、宅配会社と二人三脚で築き上げてきた配送サービスにあるといえる。アマゾンの配送の大半は、ヤマト運輸と佐川急便が引き受けてきた。

 ところが、佐川急便が13年4月、アマゾンの宅配から撤退した。採算が取れなくなったことが理由だ。その結果、ヤマト運輸が一手に引き受けることになった。

 ヤマト運輸の取扱個数は急増したが、宅配単価は下落し利益にはつながらなかった。アマゾンが時間指定や当日配送といったサービスを拡充すればするほど配達効率が下がり、ヤマト運輸の利益を圧迫するかたちになった。荷物が集中する年末などの繁忙期には、外部委託費がかさみ、減益の要因となった。

 今後の焦点は、最終的な値上げ幅とネット通販業者側の対応に移る。

 ヤマト運輸は、アマゾンをはじめ大口顧客と運賃値上げ交渉を始める。これにより、通販側が配達業務の一部をヤマト運輸以外の業者に振り向ける可能性が出てくる。佐川急便はアマゾンから撤退しているため、宅配のシェア拡大に注力している日本郵便がヤマト運輸に取って代わる可能性がある。

 ネット通販会社が値上げを受け入れれば、消費者が支払う商品価格に送料が上乗せされることになり、送料無料の時代は終わる。

 通販業界の専門紙の通販新聞は3月16日付で、ヤマト運輸の運賃値上げに関して、主要企業30社を対象に緊急アンケートを実施した。

「値上げについては人手不足やドライバーの労働環境改善など致し方ないと一定の理解を示す一方、最大荷主と思われるアマゾンジャパンとヤマト運輸の問題とした上で、それに巻き込まれることに当惑しているところが少なくない」と分析した。

 スマホの普及で物販消費の5%近くまでシェアを拡大したネット通販は、急激に巨大になりすぎて、宅配業界をノックダウン寸前に追い込んだ。

“黒猫”が、ネット通販の巨人・アマゾンに踏みつけられ、悲鳴を上げている図なのである。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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