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吉田潮「だからテレビはやめられない」

『あなそれ』、棒演技・東出昌大にのしかかる「冬彦さん超えの壊れっぷり」の重圧

文=吉田潮/ライター・イラストレーター
『あなそれ』、棒演技・東出昌大にのしかかる「冬彦さん超えの壊れっぷり」の重圧の画像1「Thinkstock」より

 一本調子で棒演技、「抑揚」を忘れて生まれてきた男・東出昌大が、もしかしたら大化けするかもしれない――。

 そんな期待とは別の意味での不安がよぎったのは、『あなたのことはそれほど』(TBS系)である。ここのところヒット作を連発している同局の火曜ドラマ枠で、みんな大好き不倫モノである。パッとしない出演陣を補う、半ば炎上商法的なニオイもする。

 主人公は、朝ドラ以降出ずっぱりの波瑠。知的で清潔感のある美人の波瑠が、打算的で他力本願でちょっと頭悪そうな女を演じるのが新しいと思う。役どころとしては、ときめかないけど嫌いじゃない男と結婚した後で、初恋の男に偶然遭遇して、うっかり不倫のドツボにハマる。このときめかないけど嫌いじゃない男というのが、東出なのだ。妻には、柴犬に抱かれているような感覚しか与えられない、残念な男である。

 おどおどして、どんくさい。かといって、落第点のダメ男ではない。微妙に気がきいていて、中途半端に優しくて無害、という登場である。ところが、結婚後にじわじわと変貌を遂げていく。波瑠が男の名前を寝言でつぶやいたのを機に、壊れていく。妻のスマホをこっそり盗み見するわ、異様な数のメッセージを送ってくるわ、「幸せ?」を強要してくるわで、あれ、これは……もしかして……冬彦さん!? 平成の冬彦さん誕生か! TBSだし。 

 つい昔の作品と比べてしまう私の悪い癖。もはや老害だなと思いながらも、もう止まらん。1992年の大ヒットドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系列)で、佐野史郎が演じた冬彦さんの異様さは強烈だった。木馬に乗って叫ぶ姿、あの過剰に異常なエキセントリックマザコン夫に、東出は肉迫できるだろうか。

 今、世のなかは不倫バッシング。大物ハリウッド俳優だろうと芸人だろうと政治家だろうと、不倫は叩いて叩いて粉々になるまで叩きまくる。そんなご時世にこのドラマをあえて送り出すTBS。よほどの勝算があるんだろうな。まさかその仕掛けが東出にかかっているとしたら、心もとないなぁ。波瑠の不倫相手はそこまで魅力的とは思えない劇団EXILEだし、不倫相手の嫁には発狂が十八番の仲里依紗だし。それもなんか心もとないなぁ。

『逃げ恥』で築いた新しい夫婦関係の提案、『カルテット』で暴いた夫婦関係の理想と現実。それがこの『あなそれ』で台無しにならぬよう祈るしかない。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

吉田潮

吉田潮

ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)で「TVふうーん録」を連載中。東京新聞でコラム「風向計」執筆。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)などがある。

Twitter:@yoshidaushio

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