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乗客引きずり降ろし&出血事件のユナイテッド航空、露骨なエコノミー客差別体質か

文=深笛義也/ライター
乗客引きずり降ろし&出血事件のユナイテッド航空、露骨なエコノミー客差別体質かの画像1記者会見を行うデービッド・ダオ氏の娘(写真:ロイター/アフロ)

 4月9日に米ユナイテッド航空で起きた、乗客引きずり降ろし事件が波紋を呼んでいる。13日には、被害者であるデービッド・ダオ氏の娘が記者会見を行い、同社とシカゴ市を訴えることを検討していることを明らかにした。同事件は、オーバーブッキングによって座席が足りなくなったことが発端だ。

 しかし、なぜこのような事態が起きたのか。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏に、この事件の背景や航空会社の事情を聞いた。

「航空会社は、座席数よりも多くの予約を受け付けることが一般的です。スポーツやコンサートのチケットと違い、航空券は予約の変更やキャンセルができるため、航空会社は統計を取った上で『これくらいのキャンセルが発生するだろう』と推測して、その分多めに予約を取るわけです。

 推測よりもキャンセルが少なかった場合はオーバーブッキングになるわけですが、その場合は現金あるいはバウチャー(クーポン)を出すなどして、ほかの便に変更してくれるお客さんを募ります」(鳥海氏)

 今回の事件では4席が足りなくなり、航空会社側から4人の乗客が降りるように指示され、3人の乗客が従い、補償金とホテル宿泊のバウチャーを受け取った模様だ。日本の航空会社の場合は、どのような補償があるのだろうか?

「日本の航空会社では、現金もしくはマイルに宿泊費という補償が多いです。現金は、国内線で当日の別便なら1万円、翌日の便では2万円です。国際線の場合は3~5万円くらいになります。

 ただ、日本の航空会社のオーバーブッキング率は、アメリカほど高くありません。そして、乗客のなかには急ぎでない人も多いため、ホテル代に加えて現金ももらえ、もう1泊できてラッキー、ということで応じる人も多いのです。ほとんどのケースでは、変更してくれる乗客が集まります」(同)

 被害者のデービッド氏は医師で翌日に診察を控えており、急いでいたという。

「問題の便は、日曜日の夜でした。月曜から仕事があるからその便に乗っているという乗客が多いため、振り替えに応じてくれる人が出づらかったという事情はあるでしょう」(同)

航空会社は乗客の同意なしに搭乗拒否できる?

 今回の事件の問題点は、どこにあったのだろうか?

「搭乗ゲートを過ぎて、乗客がすでに機内の座席に座ってから降ろしたという点が一番の問題ですね。航空会社は、乗客の同意がなくても補償をすれば搭乗を拒否できる。これは約款で決まっており、日本でもほぼ同様です。逆にいえば、予約をしたからといって、100%乗れるとは限らないわけです。

 しかし、そうした問題は搭乗前に解決しておくのが常識でしょう。乗ってから降ろすという行為自体は、法律的には問題ありませんが、力ずくで降ろすのは、サービス業の民間企業としては問題があったといわざるを得ません」(同)

 また、今回の事件には、ユナイテッド航空の社員4人を乗せるために席が必要になったという事情もあった。

「乗客から協力者が出ないのであれば社員を乗せない、というのが普通の対応でしょう。当時は天候が荒れていたようで、機材繰りの関係上、その4人を乗せないと翌日に欠航などの影響が出てしまうという事情があったようです。目的地は車で5時間ほどの距離とのことですが、それでは十分に睡眠が取れないということで、パイロットは特に休息時間を長く取らなければならない旨の規約に引っかかる恐れもあったのでしょう。

 しかしながら、なんとかして社員の搭乗を回避できなかったのか、と思います。警察に頼んで、血を流してまで乗客を引きずり降ろすのが正解だったのでしょうか」(同)

論外の事後対応で“ユナイテッド航空離れ”加速

 ユナイテッド航空は、3月にはレギンスの着用を理由に少女2人の搭乗を拒否して物議を醸した。乗客に強圧的な航空会社なのだろうか? アメリカ渡航の多い40代ビジネスマンは、以下のように語る。

「ビジネスクラスやファーストクラスのお客さまへの対応は、いいと思います。一方、今回問題になった国内線のエコノミークラスというのは、LCC(格安航空会社)と同じくらいの料金で薄利なのです。JAL(日本航空)やANA(全日本空輸)の場合、荷物は20kgまで無料で預けられますが、ユナイテッド航空だけでなく、アメリカの国内線エコノミーは多くのLCCのように有料です。

 自分自身の経験からしても、アメリカのエコノミーに乗るのは嫌ですね。サービスはLCCと変わらない、むしろLCCのほうがいいのではと思うくらいです。背景には、そうした航空会社の“エコノミー客軽視”の風潮があるのかもしれません」

 今回は、事件後のユナイテッド航空の対応も問題になった。同社のオスカー・ムニョスCEO(最高経営責任者)は当初、社内向けの文書で「(乗客は)けんか腰だった」「断固として皆さんを支える」などと称賛していたことが伝えられたが、その後謝罪した。

「当初の評価は『ルール通りにやった』ということなのでしょうが、これはアウト。日本であれば、辞任問題にまで発展するでしょう。また、世論に押されて謝罪するというのも論外。オスカーCEOは、被害者本人と話すといっていますが、そんなことは最低限かつ当たり前の対応です。被害者側は訴えるといっていますが、あのような事後対応では、『ユナイテッド航空に乗りたくない』という人は今後も増える可能性もあります」(鳥海氏)

 今日もユナイテッド航空の飛行機は空を飛んでいるが、その信用は地に墜ちたといっていいだろう。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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