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ペット用医療が大幅進化、イヌ・ネコが長寿命化…再生医療やがん免疫細胞治療まで

ヘルスプレス編集部
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ペットの長寿に「再生医療」「がん免疫細胞治療」! イヌとネコの平均寿命がの画像1平均寿命は25年でイヌが1.5倍、ネコが2.32倍(depositphotos.com)

 日本でペットとして飼われているイヌとネコの平均寿命は、イヌが13.2歳、ネコが11.9歳。どちらも過去最高を更新した(東京農工大学と日本小動物獣医師会の大規模調査:「毎日新聞」2016年9月14日)。

 1990年、1994年、2002年に次いで4回目となる2014年の調査では、全国192の動物病院で死んだイヌ5977匹、ネコ3288匹のデータから平均寿命を算出。1990年の平均寿命はイヌ8.68歳、ネコ5.1歳だったので、およそ25年間でイヌ1.5倍、ネコ2.32倍の急伸長だ。

 イヌは純血種(12.8歳)よりも雑種(14.2歳)が、ネコはオス(11歳)よりもメス(12.9歳)が長生きだった。感染症による死因率はイヌが約2.5%、ネコが約12%に激減。ワクチン接種率はイヌが約82%、ネコが約54%とイヌのほうが高い。

 室内飼いで餌や医療環境が改善され、ワクチン接種の普及が感染症を予防したため、長寿命化につながった。

イヌとネコの死亡原因のトップ3は?

 だが、好事魔多し。人間のようにイヌもネコも病気に苦しんでいる。死亡原因のトップ3を見ると、イヌはがん(54%)、心臓病(17%)、腎不全(7%)。ネコはがん(38%)、腎不全(22%)、伝染性腹膜炎(10%)だ(日本アニマル倶楽部「犬・猫 死亡原因病気TOP10」)。

 ディライトクリエイション(東京都港区)が全国200人の飼い主を対象に行った調査によれば、都市部で暮らす飼いイヌは、冷たいコンクリートや焼けたアスファルトの上を歩くためダメージを受けやすく、エアコンによる室内の乾燥で水分を失いやすいことから、肉球の乾燥トラブル(ひび割れやアカギレなどによる歩行障害や関節障害)を抱えているケースが少なくない。

 『灼熱のアスファルト、愛犬の肉球火傷が危ない! ドッグブーツは是か非か?』の記事でも取り上げている。

 また、ネコの健康問題として腎不全(血液中の老廃物の排尿障害)が非常に多い。

 東京大学の宮崎徹教授(疾患生命科学)らの研究チームが、英科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』(電子版)に発表した報告では、ネコは5〜6歳で急性腎不全になりやすく、腎機能を制御する血液中のタンパク質AIMが働かないため、全体の50~70%程度がおよそ15歳までに慢性腎不全に罹って死ぬ。

 タンパク質AIMの働きを活用した新薬の開発が進めば、ネコの寿命が延びるだけでなく、人間の腎不全治療の活路も開かれそうだ。

 このようなペットの長命化の一翼を担っているのが「再生医療」と「がん免疫細胞治療」だ。ペットの再生医療とがん免疫細胞治療はおよそ10年前に始まったばかりだが、高齢化に伴う疾病の多様化や慢性化がますます進んでいる。

「がん免疫細胞治療」はペットの長命化の立役者になるか?

 人間では頻繁に話題となる再生医療だが、ペット対象の再生医療でも、がんをはじめ椎間板ヘルニア、下半身麻痺などの脊髄損傷、骨折癒合不全のほか、多発性関節炎、溶血性貧血、血小板減少症などの免疫性疾患、乾性角結膜炎、IBD(炎症性腸疾患)、難治性口内炎、アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患などに対する治療薬の開発が進んでいる。

 岸上獣医科病院(大阪市)の岸上義弘院長は、2005年に獣医師22人と動物再生医療の研究会を立ち上げ、2013年に日本獣医再生医療学会(会員数約900人)を設立。同学会ホームページに治療が受けられる動物病院160カ所のリスト(http://jvrm.jp/owner1.html)を掲載し、再生医療とがん免疫細胞治療の啓蒙・普及に努めている。

 ペットの再生医療とがん免疫細胞治療は、どのように進めるのだろうか。再生医療は、さまざまな臓器・組織に分化する幹細胞を体外で培養後に、培養した幹細胞を体内に移植し、失われた臓器・組織の機能を再生する幹細胞治療だ。幹細胞治療は、骨髄液中に存在する骨髄幹細胞(MSC)または皮下脂肪に含まれる脂肪幹細胞を使う。

 幹細胞治療の流れはこうだ。

「骨髄液または皮下脂肪を採取する」→「清潔な環境でそれぞれの幹細胞を大量に培養する」→「培養した幹細胞を洗浄する」→「注射や静脈点滴によって体内に移植する」

 幹細胞治療は、高齢のペットや衰弱したペットでも副作用がほとんど見られないが、まれに吐き気・嘔吐・過呼吸・アレルギー反応などを示す場合がある。静脈点滴を大量に投与すると、肺塞栓のリスクも高まる。

「がん免疫細胞治療」は免疫力を利用したオーダーメイド治療

 一方、がん免疫細胞治療(活性化自己リンパ球療法/LAK療法)は、ペットに生まれつき備わっている免疫力(活性化自己リンパ球)を利用しながら、がんの発症状況や病態に合わせて行うオーダーメイド治療だ。

 がん免疫細胞治療の流れはこうだ。

「血液を10~12ml採取する」→「血液中のTリンパ球を回収する」→「薬剤によってTリンパ球を約1000倍に増殖する」→「増殖後、静脈点滴によってTリンパ球を体内に戻す」

 外科手術、化学療法、放射線療法はがん治療特有の苦痛を伴うが、がん免疫細胞治療はTリンパ球の増加によって免疫力を全身的に高めるため、拒絶反応が少なく発熱などの副作用も小さいので、ペットの負担が緩和される。再発・転移の予防効果も大きい。

 そのほか、がん免疫細胞治療には、抗原を提示する能力が高い樹状細胞(IL-4とGM-CSF)を増殖させて体内に戻す「樹状細胞療法(DC療法)」、がん細胞を攻撃するTリンパ球とがんを認識する樹状細胞を増殖させて体内に戻す「DC+LAK療法」、γδ(ガンマ・デルタ)T細胞治療を増殖させて体内に戻す「γδT細胞療法」などがある。

再生医療やがん免疫細胞治療のガイドラインは?

 さて、近い将来、ペットの再生医療に活用される薬剤の有効性と安全性は十分に検証されているだろうか。

 2014年の「医薬品医療機器法(旧薬事法)」の施行に伴い、ペットを対象にした再生医療の創薬(体細胞を加工するなど低リスクの第3種再生医療)がスタート。2015年、富士フイルムとペット保険のアニコムホールディングスは、再生医療を扱う合弁会社を設立。大日本住友製薬のDSファーマアニマルヘルスは、ベンチャー企業J-ARMと連携し、2018年までに世界初のペット用細胞薬の承認申請をめざしている。

 一方、農林水産省は、平成30年度(2020年)をめどとして、薬剤の品質や安全性を確保するガイドラインを作成するために「動物用再生医療等製品の安全性試験等開発事業」を推進している。さらに、日本獣医再生医療学会と日本獣医再生・細胞療法学会は、獣医師が治療を実施する「ペットの再生医療に関するガイドライン」を初めてまとめた(「毎日新聞」 2017年4月3日)。

 人間の再生医療は「再生医療安全性確保法」に基づいて国に届け出なければならない。しかし、ペットの再生医療やがん免疫細胞治療は、獣医師に治療方針の判断や治療費の算定が委ねられているため、治療の実効性や安全性への懸念や治療費をめぐるトラブルが急増していることから、ガイドライン規制の機運が高まった。

 ガイドラインによれば、再生医療やがん免疫細胞治療の実施は、身体の機能を損なわれ、生命を脅かされる重篤な疾患に限定され、実施する時は第三者機関に届け出なければならない。

 また、再生医療の実施は、関節炎の再生医療や一部のがん免疫細胞治療などの科学的に治療効果が期待される場合だけに限られる。遺伝子操作した細胞、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)を使う場合は、治療の実施機関内の倫理審査委員会の審査を受けなければならない。

 さらに獣医師は、科学的に治療効果が期待される場合でも、明確なエビデンスは確立されていない事実を飼い主に明瞭に告知・説明する義務がある。

 さて、これで万事うまくいくのだろうか。ガイドラインは、自主規制にすぎない。しかし、ないよりははるかにいいに決まっている。

 連日のように報道される再生医療や免疫療法の進歩には目を見張るものがある。よほどの専門家でない限り、その進歩やエビデンスに追いつくことは難しい。その隙間や弱みをついて人間に対する治療の世界では、エビデンスがない上に法外な料金を支払わせる詐欺的なクリニックが後を絶たない。人間の命をもてあそぶ医師が多すぎる。

 ペットの再生医療やがん免疫細胞治療も、携わる獣医師の良識と行動にかかっている。
(文=ヘルスプレス編集部)

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