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小笠原泰「コンピュータ技術の進歩と日本の雇用の未来を考える」

人間が雇用されない「沈黙の解雇」が進行…高度な専門性やサービス業でも機械に置き換え加速

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
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AIの適応領域を論理的に分類

 以下、多くのワーカーが選択を考える上で参考になるであろう、適応領域を論理的に分類してみたい。

(1)「弱いAI(=デジタルテクノロジー)」を使いこなす

「弱いAI」よりも上位レベルで考え、不完全な状態でも優先順位をつけ、課題を解決する(その時点での最適解を模索する)ためには、「弱いAI」をどのように利用することが最大効果の点で可能かを判断できる。それには、大局観が求められる。

(2)「弱いAI」と一緒に働く

「弱いAI」の能力を理解し、それを現場で仕事のプロセスといかにつなげて、マッチングさせていくかを、「弱いAI」の利用とビジネスプロセスの最適化の観点で実行できる。いい換えれば、「弱いAI」とビジネスプロセスとの間の翻訳者である。

(3)「弱いAI」に使われる

 人間がしている仕事の付加価値が低く、「弱いAI」を導入するという投資に見合わないと判断される仕事や、「弱いAI」を導入するという投資に見合うが、マーケティング上、あえて人間にやらせる価値があると判断された仕事である。これらは、専門性は求められない、付加価値が高い仕事ではないので、賃金も安く、避けたい選択肢だが、失業するよりはましであると考えることもできるバックストップ的な選択肢である。

(4)ニッチ(当分涸れない小さな池)

 現在の人間の仕事の専門性が高く、付加価値も高いのだが、「弱いAI」を導入するという投資が見合うほどの規模がない仕事である。「弱いAI」の進歩によって、いつかは消滅するかもしれないが当面は生き延びる。これも沈黙の解雇に当たる仕事であるかもしれない。

(5)棲み分け

「弱いAI」も万能ではないので、得意でない仕事もあるはずであると捉え、その領域がなんであるかを探る。考えられる領域としては、完全性と再現性が求められないものであろう。別の言い方をすれば、想定通りには進まず、臨機応変な対応が求められる、一回性の非計算・非認知の領域である。具体的には、コミュニケーションが必要な人とのインターラクションの多い、説明や説得や気遣いなど共感能力と感情表現を必要とする仕事が考えられる。最も多くのワーカーが、この領域に適応することになるのではないか。

 とはいえ、接客などのサービス業の多くがすでにデジタルテクノロジーに代替される流れにあることからも、サービス業だから安心ということではなく、人間的要素がより訴求される領域を探す努力は必要である。

(6)システムそのものをデザインする

 新たなシステムをデザインするのは、無から有を考えられる人間であろう。これには当然、高い学習意欲と探究心を前提に、先端のデジタルテクノロジーに対する深い知見が求められるうえに、創造性と文理双方の知識も求められるので、難易度は相当に高い領域であるといわざるをえない。

最も大きなリスク

 上記にあげた6つの選択肢のなかで、自分はどれに適合し、さらに追求していけば良いかを私たちは考える必要がある。それを考えることが、「弱いAI」による雇用喪失という環境に、自分はいかに適応していくかの一助になればと考えている。

 最後になるが、加速化するデジタルテクノロジーの進歩がもたらす影響とそれへの対応を考えるには、まず、デジタルテクノロジーを理解することが第一である。知らないことは、最も大きなリスクになることを理解しなければならない。リスクを取らないことが最も大きなリスクであり、リスクを取らなければ「馬」になると心得なければならない。

「弱いAI」は疑うことをしないが、人間は信じる(believe in)ことができる。そして、良い質問とは人間にしかできない。この2つを心にとめて、環境変化への能動的適応というリスクを取る姿勢を身につけてほしい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

【註1】
パーセプトロン:動物の神経細胞は、樹状突起で他の細胞から複数入力を受け取り、入力が一定値以上に達すると信号を出力するが、その一連の動きをモデル化したもの。

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