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浜田和幸「日本人のサバイバルのために」

急接近する習近平とプーチン、中露超大国同盟…欧州~露~北海道通貫の新シルクロード計画

文=浜田和幸/国際政治経済学者

 数世紀にわたり西欧列強や日本に植民地化され、自然や人的資源を収奪されたという負の歴史を塗り替えるには、中国4000年という他に類を見ない悠久の歴史、言い換えれば、決して「奪われることのない富」を持ちだす手法をフルに活かすテクニックである。世界4大文明の発祥の地という「歴史的な武器」を最大限に活用しているわけだ。

力による現状変更

 習近平にとっては、歴史を味方につけ、未来を担う青年たちを鼓舞することが、短くとも当を得た演説のキモとなっている。さらにいえば、自信家の象徴ともいえる「演説の短さ」も指摘できよう。建国記念日や独立記念式典など注目を集める場で、最高指導者として演説する機会が多いのは当然だ。しかし、前任者と比べると、短くする効果を狙って、演説の長さは概ね半分程度で収める。時には3分の1のこともあるほどだ。

 2015年10月、建国66周年を迎えた中国。天安門広場における習近平主席の演説は前任者の胡錦濤の半分ほどの短さだった。要は、習近平主席は長々とした演説をぶたなくとも、国民を納得させることができるメッセージ力とコミュニケーション力に自信を持っているのである。余談だが、「短い演説」は直立不動で警備にあたる衛兵たちにはすこぶる好評のようだ。

 とはいえ、南シナ海の岩礁埋め立てやアメリカをターゲットにしたサイバー攻撃などは、国際的なルールを無視した「力による現状変更」として、欧米や日本では評判が悪い。結果的に、アメリカ主導の経済制裁の対象にもなり、国際的な不信感が増す原因となっているわけだ。とはいえ、習近平もあらゆる機会をとらえて、反論に余念がない。批判に対し、徹底的に反論する。たとえ、それがどんなに手前勝手な言い訳であったとしても、だ。たとえば、次のような具合だ。

「体つきがどんどん大きくなる中国を見ると、なかには憂慮し始めた人々もいるし、いつも色眼鏡をかけて中国を見ている人々もいる。彼らは中国が発展し勃興すれば、必然的に一種の脅威になるとし、中国を恐ろしい悪魔のメフィストフェレスのように描く。まるで、いつの日か中国が世界の魂を吸収してしまうとさえ考えているようだ。これは『アラビアン・ナイト』のようなもの。実に困ったものだ。ことほど左様に、偏見とは取り除くのが難しい」

歴史を味方につける習近平流

 とはいえ、そのような弱音を吐露した上で、歴史を味方につける発言を繰り出し、形勢逆転を目指すのが習近平流だ。

「人類の歴史を振り返ってみると、人々を隔てるのは山河でもなく、大海でもなく、人間同士の相互理解、相互認識を遮る見えない壁である。ライプニッツが言ったように、各自の才能を相互交流して初めて、共に知恵の明かりを灯すことができる」

 これはドイツ訪問中の発言であり、巧みにドイツの哲学者を発言に織り込んでいる。しかも、「5000年の歴史を持つ中華文明」という表現を使い、あっという間に中国の歴史を1000年も長くしてしまう。09年、ドイツのメルケル首相とフランクフルトのブックフェアの開幕式で同席した時の発言も奮っていた。

「異なる文化の相互交流を通じてこそ、異なる国々の人々は中国の孔子、ドイツのゲーテ、イギリスのシェークスピアを知ることができる。世界文化の一層の交流推進は人類の進歩と平和的発展の原動力になる」

 かつて文化大革命の時代においては孔子の教えを徹底的に批判し、孔子廟を次々と破壊したものだが、そうした歴史はさらりと水に流して忘れてしまったような口ぶりだ。

 習近平は言葉巧みにロシアにも語りかけている。

「私のようなポストにあれば、基本的に自分の時間はない。中国では一時『時間はどこに行ったの』という歌が流行った。私にとって問題は、自分個人の時間はどこに行ったのかだが、もちろん仕事に占められている。そんななか、唯一できることは読書である」

 その唯一の自由になる時間をロシア作家の作品に当てているというのである。狙った相手を徹底的に持ち上げる。本心がどこにあるかは別にして、そうした相手に取り入るための「積極的なお世辞」は外交上の必要悪といえるものだ。

距離を縮める中ロの指導者

 もちろんプーチンも負けてはいない。「孔子や老子など中国古代の思想家はロシア人民にとってなじみのある存在である」と応じている。要は、中ロの2人の指導者は事あるごとに互いの距離感を縮める言葉で「交流」しているのである。

 理由は明白であろう。対外的な批判を打ち返すには、単独で対応するよりも味方を募り、協調するにこしたことはないという作戦だ。言い換えれば、両氏は「窮鼠猫を噛む」ではないが、かつての敵対関係を水に流し、強力な反欧米のスクラムを形成しつつあるわけだ。その共同戦線を張るためには、お互いの歴史や文化を知らねばならない。

 習近平は13年、モスクワ大学の講演で次のように述べている。

「中ロ関係は世界でもっとも重要な2国関係であり、しかももっとも良好な大国関係である。双方の20年以上の絶えまない努力によって両国は全面的な戦略協力パートナーシップを築いてきた。歴史が残した国境問題を徹底的に解決し、中ロ善隣友好協力条約に調印し、長期的な発展に強固な基礎を固めた。中ロ関係は終始、中国外交の優先方向である」

 これ以上ないと思えるような中ロ関係礼賛の言葉のオンパレードだった。プーチンも「ロシアは繁栄かつ安定した中国を必要としている。一方、中国も強大かつ成功したロシアを必要としている」と阿吽の呼吸で応えている。さらに、プーチン曰く「中国の声は世界に響き渡っている。我々はそれを歓迎する。なぜなら、平等な国際社会をつくるという視点を共有しているからだ」。

 しかも、注目すべきは、その協力のあり方をアピールする際に、共通の敵としての「日本」を持ち出すという「歴史カード」を切っていることである。何かといえば、抗日戦争における旧ソ連のパイロット、クリシェンコ氏のことだ。日本では無名の存在だが、彼は中国軍兵士と共に戦い、戦死した軍人にほかならない。彼の残した言葉を今さらのごとく繰り返すのである。

「私はわが国の災禍を体験するかのように、中国の働く人々が今被っている災難を体験している」

 習近平はこのロシア人パイロットのことを「中国人は英雄として忘れていない」と持ち上げる。その上で、「中国人の親子が半世紀にわたり彼の墓を守り続けている」と紹介しているのである。

 こうした中ロの政治的蜜月関係や国民レベルでの交流は安全保障の分野にも広がりを見せている。15年以降、地中海はもとより、ウラジオストク周辺の日本海においても、中国とロシアの共同軍事演習の機会が増えているからだ。その背景には、この2人の指導者の強い軍事力信奉傾向と、アメリカ主導の戦後体制に挑戦し、新たな政治、経済の仕組みを形成しようとする強い意志が隠されている。

 そのため、特に中国は日本やアメリカが主たる出資者となって誕生させたアジア開発銀行(ADB)や、戦後世界の金融体制を形成してきた世界銀行や国際通貨基金(IMF)に代わる、アジアインフラ投資銀行の影響力拡大に余念がない。加えて、陸や海のシルクロード計画にも着手。サウジアラビアのサルマン国王は中国の後、インド洋のモルディブを訪問したが、ここでも中国と協力してシーレーン防衛の拠点を構築する計画が進められている。

ユーラシア同盟

 はたまた中国は「サイバー空間におけるシルクロード」計画も提唱しているほどである。これらも「シルクロード」という歴史的遺産に新たな時代に相応しい価値を吹き込もうとする中国的なアプローチにほかならない。

 他方、ロシアは「ユーラシア同盟」を提唱し、ロシアの極東やシベリア方面の開発に、中国も巻き込み、海外からかつてない規模での投資も呼び込もうと躍起になっている。プーチンは「ロシア極東は協力したい人々にすべて開放する」と語気を強める。実はロシアの極東地域は中国との国境線地帯を中心に石油、天然ガス、石炭、木材が豊富に眠っている地域である。また、ロシアの漁業資源の7割を占めているわけで、まさに「資源の宝庫」そのものである。

 ただし、それだけ資源には恵まれているが、開発に従事する人がいないのが悩ましいところであろう。何しろ、極東地域の人口はロシア全体の5%以下で、常に労働力が不足している。国内の他の地域からも優遇策で労働力を確保しようと工夫をしているが、思うような成果は得られていない。そのため、中国、モンゴル、韓国、北朝鮮といった国々にも働きかけを強め、労働力の確保に必死で取り組んでいるわけだ。

 人や物資の移動に欠かせないのが鉄道や高速道路である。ロシアはヨーロッパ方面とシベリア極東を結び、さらに南北朝鮮縦断鉄道やサハリン経由で北海道を結ぶ国際輸送回廊計画を提唱中である。今後20年で世界の物流風景は中ロを軸に大きく変貌を遂げるに違いない。しかも、プーチンはシベリア鉄道をはじめ、あらゆる物流をAI化することで無人化を促進する「第4次産業革命」を実現すると訴えている。中国の推進する「新シルクロード構想」はその発想を拡大、進化させようとするものだ。

ロシアと変貌する世界

 当然のことながら、今後急成長が期待できる東南アジアや南アジアに対しても、陸のみならず海上輸送路の整備が望まれる。南シナ海での岩礁の埋め立てについても、中国の海洋シーレーンを牛耳ろうとする思惑が透けて見える。グローバルな輸送市場の急展開を想定し、中国とロシアが連携を図りつつ、インフラ整備や安全保障体制の確立に向けてチームワークを組み始めていることは注目に値しよう。

 東南アジアや南アジア諸国にとっては、中国の軍事的な動きは懸念材料となってはいるものの、中国が得意とする「札束外交」とも揶揄される経済援助や世界最大の人口を抱える市場の潜在的魅力には抗うことはできない。軍事的衝突を繰り返したベトナムですら、中国との政治、経済的対話の道を慎重に模索しているのも、そのためであろう。フィリピンのドゥテルテ大統領がアメリカを見限り、中国との関係強化に舵を切ったのも、チャイナ・マネーの威力のなせるワザにほかならない。

 互いに国際的な非難を浴びることがあるものの、それゆえにこそ、中国とロシアは、かつてないほど強力に依存関係を深めつつあるわけだ。習近平とプーチンの相互依存関係は資源開発やテロ対策を主眼とする「上海協力機構」にとどまらない。中央アジアのインフラ整備に始まり、エジプトの首都移転計画やアフリカ、中東地域においても同様の動きが進んでいる。

 プーチンは「ロシアと変貌する世界」と題する論文の中で、「中国との連携を軸にシリア情勢、イランや北朝鮮の核問題など、欧米とは一線を画す」姿勢を鮮明に打ち出している。

 要は、プーチンは崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張してやまないプーチン。「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。

指導者の人間力を見極める

 実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。残念ながら、こうした動きに日本はまったくといっていいほど食い込むことができない状態が続いている。それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。

 日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力を生かしながら、中国やロシアとの関係進化を目指す必要がある。その際、大切な視点は指導者の人間力を見極めることだ。強みと弱みはどこか。卑近な例だが、娘思いのプーチンの弱みを見抜き、中国はプーチンの娘を少林寺に招いた。その結果はどうなったか。それまで父親の影響で柔道に励んでいた娘が少林寺拳法に鞍替えしたのである。

 最近の事例でいえば、トランプ大統領ですら、娘のイバンカに中国とのビジネスを進めさせると同時に、孫娘には中国語を学ばせ、習近平夫妻の前では中国語の歌を歌わせ、首脳会談の場を和ませていた。トランプ大統領の2人の息子たちは中国大陸や台湾での不動産開発に邁進中だ。また、娘婿で大統領の補佐官を務めるクシュナー氏は中国の大手保険会社との緊密な関係を築いている。

 一事が万事。外交も国際関係もトップの個人的関心に大きく左右される。米中、中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して外交関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取る上では欠かせない視点であろう。常に相手の関心の向かう先を先回りし、共にウィンウィンの関係となるよう道筋を明らかにすること。短く、パンチある言葉で、ときには共通の課題や敵の存在に目を向けさせることも有効な手段となるに違いない。

中国最大の課題

 今日、中国最大の課題は幹部の汚職と富の海外持ち逃げである。拝金主義がまん延し、貧富の格差も広がる一方だ。中央、地方を問わず、党や政府の幹部の地位を悪用したビジネスが横行している。このままでは世界との競争に勝てないどころか、内部崩壊のリスクも高まる一方であろう。環境汚染も深刻だが人心荒廃はより深刻なもの。

 こうした腐敗や汚職を一掃しなければ、中国の未来はない。習近平はその戦いの最前線に立つ指導者とのイメージを打ち立てようと必死になっている。メディアを通じて「ミスター・クリーン」のイメージを定着させることに熱心だ。仲睦ましい夫妻像しかり、幼い頃の苦労話や身内に対して、ことさら地位の利用を戒めている家族会議の様子もしかりである。

 確かに、習近平はことあるごとに次のように語っている。「実業の世界に入るか、あるいは官僚の世界に入るか、2つの選択肢がある場合、官僚の世界を選んだ限りは、金儲けなど忘れることだ」。自らに語りかけているようにも見えるが、実際には、彼自身を取り巻く金銭スキャンダルも多々あるようだ。しかし、メディアコントロールが効いているせいか、今のところ、国民からの信頼と期待をつなぎとめている。

 巨大な暴走列車と化している中国を操る習近平の日々の動向に無関心でいるわけにはいかない。習近平の掲げる「中国の夢」、その歴史的着地点を見極めつつ、今年国交正常化45周年を迎える日本と中国の未来図を冷静に描きたいものだ。その意味でも、間もなく開催される「一帯一路」サミットの結果に注目したい。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

浜田和幸/国際政治経済学者

浜田和幸/国際政治経済学者

国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

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