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神戸山口組から離脱した織田絆誠代表らの「本気度」…3つの組織による情報戦激化へ

文=沖田臥竜
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神戸山口組から離脱した織田絆誠代表らの「本気度」…3つの組織による情報戦激化への画像1当記事の筆者・沖田氏も寄稿する『山口組分裂「六神抗争」365日の全内幕』(宝島社)

 神戸山口組から離脱した元幹部たちによる新団体「任俠団体山口組」が発足されてから、5月2日で3日がたつ。筆者は、任俠団体山口組のお膝元ともいっていい兵庫・尼崎在住だが、現在のところ街中の雰囲気を見る限り、即、血で血を洗う抗争に発展してしまいそうな気配はない。

 これは、神戸山口組が離脱した組員たちに対して設けた「10日間のうちならば、戻ってきていい」という猶予が作用しているともいえるだろうし、ヤクザの人権をも奪いかねないほどの暴力団対策法や暴力団排除条例といった強い法規制が抑止力となって、派手なアクションを封じ込めている側面があるともいえるだろう。

 任俠団体山口組が4月30日に開いた記者会見の内容は、神戸山口組からの離脱が偽装ではないことを強く印象づけたが、それを完全に肯定することができるかといえば、警察当局は“否”と答えている。織田絆誠代表をはじめとした任俠団体山口組の面々は、これまで2つに分かれた山口組を再びひとつにするために、現場で尽力してきた実績がある。そうした大義を持つ彼らが、自ら三つ巴という混沌とした状態を生み出し、山口組の再統合を困難にするようなことはしないという見方を当局は捨てていないのだ。

 だが、そんな織田代表が割ったことにこそ、今回の事の重大性が表れているし、神戸山口組と任俠団体山口組の方向性の違いが垣間見えてくるような気がする。それは六代目山口組についてもしかりだ。

 3つの山口組はいずれも、世間がどのような評価をしようが、「ヤクザは暴力団ではない」という矜持を持っている。地域の治安を守るために、弱い人を助けるために、また渡世を歩むために生きるのがヤクザという侠客であり、乱暴な表現をすれば、そうした生き方の筋を通すためには、時に暴力が必然となるという論理だ。3つの山口組が最も大事なものとして標榜しているのが、この任侠と呼ばれる精神である。

 その任侠を貫く上で行われた、組織に対する表現の違い――簡単には説明できないが、例えば現代的な方式を取り入れながら、経済的な問題や人事について実践されたことに対するそれぞれの確執が、2年前の夏に空前絶後の分裂を生み、今回の再分裂を生んだ気がしてならない。

発足までに流れていた噂

 当初流れていた噂では、まず神戸山口組から二次団体が6社離脱し、後に2社が加入、四代目山健組から織田絆誠代表と志を同じくして離脱した三次団体によって、新団体は形成されるのではないかといわれていた。

 これらの計画が真実であったのかはどうかは不明だが、任俠団体山口組に参加した組織は実際にはこれよりも少なかった。これが任俠団体山口組幹部にとって、想定内であったのかはわからない。ただ、相当な覚悟と大義を持って新組織を立ち上げることを決めたという事実の前では、参加数が減ったところで、その志が簡単に揺らぐことにはならないだろう。

 神戸山口組においても、任俠団体山口組においても、山口組を割る、組織を割るということが、その後にどれだけ困難な状況を生み出すものとなるか、歴史を紐解いてみれば容易に予測できたはずだ。それを承知で神戸山口組は立ち上がり、結果、組織を確固たるものへと築き上げてきた。その現場の最前線に立ち続けたのが、神戸山口組の若頭代行だった織田代表である。つまり、組織を割ることの困難さを知りつつも、新たな組織を強化することに実績を残した織田代表ほか任俠団体山口組の幹部は、すべてを覚悟の上で今回の事を起こしたという見方ができるのではないだろうか。

 ただ、まったく誤算がなかったかといえば、そうではない可能性がある。任俠団体山口組が発足式に使用したのは、尼崎市にある古川組事務所。この古川組は、現在、三代目古川組として任俠団体山口組に加入しているのだが、二代目古川組としては、神戸山口組にとどまったという複雑な事情があるといわれている。これは、京都の雄、会津小鉄会の乱に類するように映るのだが、任俠団体山口組にとっての問題は、古川組事務所の所有権が二代目古川組にあるといわれていることだ。本来であれば、神戸山口組における俠友会の事務所(淡路市)のように本部事務所として使用すると考えていた可能性もあるのだが、そのもくろみは削がれてしまったのではないか。

不穏な情報が飛び交う情報戦に突入か

 3つに分かれた山口組だが、それぞれの組織が、情報漏洩の防止や飛び交う噂に惑わされないよう注意喚起を徹底している。敵対組織を切り崩すにあたって、情報は何よりも重要な武器だ。混乱期には必ず、幹部たちの移籍に関するデマが流され、末端組員になればなるほど不安定となり、それが積もり積もれば上層部への疑心暗鬼につながる。それゆえ、今後ますます相手を害し味方に利する怪情報が飛び交う可能性が高い。何より、当局サイドも各組織の弱体化を狙い、大いに揺さぶりをかけるだろうし、トップをなんらかのかたちで逮捕するという噂が流れるはずだ。現に任俠団体山口組発足後すぐに「織田代表が本抗争に突入するための組織を発足させたことで、警察当局が動き出した」などと事実無根の噂が駆け巡った。

  特に六代目山口組の中枢組織である弘道会は、そういった情報管理には強く、以前は情報収集を専門にした組織まで形成していたといわれている。時代が変わり、組織の在り方、抗争といったバッティングの仕方も変化してきた。今後、懸念されるのは、何より情報の錯乱とそれによる混乱の拡大だ。

 昨年5月、山口組が再統合するのではないかという噂が業界関係者の間で駆け巡った。今思えば、情報戦のなかで流されたものだったのかもしれない。まさかそこから1年の時を経て、それが3つに分かれてしまうとは、誰が想像することができたであろうか。

(文=沖田臥竜/作家)

●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。

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